Author: Yu Shioji (塩地 優)
※当サイト内の論文・解説等は、すべて著者個人がデータ収集、解析、考察を行ったもので、いかなる文言も当会を代表するものではありません。
Article type: Commentary (解説)
Article number: 250021
本稿は、国土交通省の社会資本整備審議会が2024年6月28日に公表した、「山梨県内コースター事故調査報告書」[1]を中心として、ローラーコースターにおける共振の危険性をまとめたものです。事故調査報告では、ローラーコースターの振動に対して、人体が共振を起こし、それが一因となって頸椎損傷に至るなどの外傷に至ったと考えられる(可能性が高い)としています。これは、ローラーコースターにおける負傷と人体構造とを結び付けた点で、画期的なものです。
なお、本稿は海外への安全啓発を志向し、英訳することを前提としています。報告書は、ローラーコースターの事故の解析としては画期的な視点であって、かつ現状では海外においても人体構造に関する視点が欠落している部分があると考えられるためです。事故自体を広める意図はありませんので、必ずしも平易な文章での解説ではない、という点はご了承ください。
概要
事故は、圧縮空気を利用した急加速タイプのローラーコースターで発生しました。ただし、事故原因と考えられたのは車体の振動であって、急加速自体は直接的な原因としては指摘されていません。事故の原因として指摘されているのは、
- 振動によって、頸部に圧縮荷重と屈曲荷重が同時にかかっていたと思われること
- 振動の周波数が、人体の頭部の共振周波数に近いものであったこと
- 乗客が本来とるべき安全な姿勢を保持できていなかったこと
の3点です[1]。このうち、3点目には急加速が影響した可能性を否定できませんが、それ以外は、どのようなコースターであっても発生し得るものです。事故を防ぐには、拘束方法に応じた人体の振動特性を把握したうえで、車体の振動特性を設計することの重要性を示しています。
事故の詳細
事故が起きたコースターについて
事故が起きたのは、日本の山梨県富士吉田市にある遊園地「富士急ハイランド」に設置されていた、「ド・ドドンパ」というローラーコースターです。S&S Worldrideが製造を行い、三精テクノロジーズが施行したコースターで、設計には2社が関与しています。保守点検は富士急ハイランドが行っていました。
営業運転を開始したのは2001年12月21日です。当時の名前は「ドドンパ」でした。同年3月24日にオープンした、Kings Dominionの”HyperSonic XLC”に次ぐ、2機目のS&S社製Thrust Air Coasterです。圧縮空気を用いて車両を加速する方式のローラーコースターで、当時のローラーコースターとして世界最速の172 km/hまで1.8秒で加速していました。この加速による車輪の空転を防ぐため、車輪にはゴムタイヤが使用されています。全長は1189 m、トップハットを備え、トップハットの高さは52 m、最大加重は4.3 Gでした。ハーネスは、複数のバーで脛や腿を固定するタイプのものでした。
旧型のドドンパは、トップハットを登り切れず、逆走する事案が複数発生していました[2]。トップハット頂上で強いマイナス荷重が発生すると、乗客の負傷につながるため、車両総重量や風向き、風速、気温などによって加速度を調整する必要があり、その加速度の見積もりの誤差等によって逆走が発生していたと推定されます。
ドドンパは2016年に一時営業を休止し、2017年にド・ドドンパとして営業を再開しました。この間に、トップハットは高さ49 m、高低差約46 mの垂直ループに置き換えられました。全長は1244 mになっています。垂直ループがあるため、ハーネスは図1に示すように、胸から腹部にかけてをラバーで押さえ、腰をバーで押さえるタイプに変更されました。垂直ループは、常に正の荷重がかかるエレメントであることから、一定の加速度の幅が許容されます。これに伴って、180 km/hまで1.56秒で加速することになりました。車両ごとの加速度の調整を廃し、逆走の可能性を低減したものと考えられます。

それでも逆走事故は発生しています。例えば、2017年7月15日にド・ドドンパとしてオープンした2日後、7月16日の午後2時50分頃、左後輪がパンクしたことによってループ部で逆走が発生しています[3]。なお、ド・ドドンパは空気を入れたゴムタイヤを使用しているため、通常のローラーコースターとは異なり、パンクが発生し得ます。タイヤのパンクは2018年5月にも発生していて、2020年1月には、圧縮空気を蓄えるタンクのバルブが十分に開かず、加速が不足して逆走する事故も起きています[4]。
こうした逆走のうち、タイヤのパンクに由来するものに対応するため、2019年11月から2021年3月にかけて、ホイール及びそれを固定している部品(報告書では、ホイールキャリアと呼称している)が変更されました。もともと、アップストップ輪はホイールキャリア1つに対して1つでしたが、これを2つに変更しています。この変更によって、ホイールキャリアの形状は、以前のドドンパのものに近くなりました。タイヤの設定空気圧は700 kPaで、ホイールキャリアの変更前後で変更されていません。タイヤは、MichelinのAviatorというモデルを用いている。ホイールキャリア形状の変更によって、1編成あたり980 kgの重量が増加しています。もともと、ドドンパ→ド・ドドンパの車両変更によって、1編成あたりの重量が4.6 tから4.0 tに減少し、これによって加速度が上昇した、とされています[5]。これが約5 tまで増加していたことになりますので、加速度、最高速度は低下していたと推測されます。
ド・ドドンパのホイールキャリアは、特殊な形状をしています。まず、乗客のいない先頭車両は、左右非対称です。進行方向右側は、図2に示すように車両に対して固定されていて、水平・垂直回転軸がありません。しかも、当初からアップストップ輪が2つありました。

対して左前輪のアップストップは図3に示すように1輪のみで、かつ水平・垂直回転軸を有していました。

このジオメトリに変更はないまま、右前輪を除くホイールキャリアが変更されました。変更後のホイールキャリアを図4に示します。このため、変更されたホイールキャリアは全部で9個ですから、1個あたりの重量増は109 kgとなります。

設計意図の推測
ド・ドドンパの車両は、基本的には左右のホイールキャリアが独立に水平回転をします。この場合、カーブでは左右のホイールキャリア間の距離が不足します。この距離の不足を補うために、通常はサイドフリクション輪に対して、外向きの可動域が与えられます。その例を図5に示します。

しかしながら、ドドンパ及びド・ドドンパの車両には、このような可動機構がありません。可動機構を付与せずにホイールキャリア間の距離の不足を吸収する方法として、以下の2つが考えられます。
- カーブではレール間距離を縮めている
- ゴムタイヤの変形によって吸収している
これらを考えると、1両目の右輪に水平・垂直回転軸が与えられていない理由がわかります。すなわち、ホイールキャリア間の距離の不足をゴムタイヤの変形によって吸収する設計になっていて、このために、左右両輪に回転軸を持たせると、先頭車両の車軸の向きに任意性を生じてしまうため、先頭車両の片側を固定していると考えられます。左右に走行位置の自由度があるのは、通常のローラーコースターでも同じですが、このコースターは、上下方向にもゴムタイヤの弾性によって走行位置の自由度があります。通常のローラーコースターと比べて、上下方向の振動を生じやすいという特徴があります。これを低減するために、図2に示すように先頭車両の車輪の片側を固定し、車両自体の重量を使って振動を低減していると考えられます。なお、固定されているのが右側のホイールキャリアであるのは、高速で通過する唯一のカーブが、右カーブであるためだと思われます。
2両目以降は、片側の車輪を固定するというジオメトリが成立しません。このため、2両目以降は、1両目の車両と油圧ダンパーで接続されています。車輪の振動、特に回転方向の振動を完全に抑制することはできませんが、並進方向の振動は、車両自体の動きを抑え込むことで、一定程度抑制する効果があります。ダンパーには、Fox Factory社製のものが用いられています。
ド・ドドンパの最小回転半径は、レール中心で5.5m程度です。これに対して、サイドフリクション輪間の距離は1.5m以上あります(Googleマップからの推定値は1.65m)。連結間の距離も、同様に1.5m程度であると推定されます。この場合、カーブでは5㎝以上の左右輪間距離の変化を生じます。これをタイヤの変形によって吸収していますから、走行中にこの程度の振幅の振動が、特にホイールキャリアの水平回転方向に生じている可能性があります。これは、必ずしもその振幅が車両に伝わるものではありませんが、一定の振動が車両に伝わることは免れません。
事故の概要
ホイールを変更して以降に、乗車時に重傷を負う人が相次いだことで、調査が行われることになりました。発端になったのは、2020年12月に頸椎及び胸椎の圧迫骨折を負った方から報告があったことです。その後、2021年の5月、7月、8月に骨折を伴う重傷者が発生しました。これを受けて、富士急ハイランドは2021年8月21日に相談窓口を開設。2021年10月20日までの2か月間に、前記4件を除いて、合計176件の申し出がありました。このうち、ド・ドドンパまたはドドンパに関係するものは、141件です[6]。
ド・ドドンパに関する申し出のうち、全治30日以上が見込まれるものが16件、それ以外のものが125件でした。これらについて、富士急ハイランドは
- 負傷日に来園したことを示すチケットや領収書等があるか
- 負傷日に当該遊戯施設を利用したことがわかる、ビデオ映像や写真、同伴者の証明等があるか
- 来園直後に病院を受診し、そのことを示す診断書や、医療機関への照会による確認ができるか
- 医師による見解
の4点を踏まえて事実確認を行い、前記4件を除いた8件について、ド・ドドンパによるものであると「確認」されています。
事故報告書[1]においても、この確認が行われた12件を「被害者」としています。
因果関係の判定は、例えば負傷後数週間様子を見て、それでも症状が改善しなかったために受診した、といった曖昧な事例は含まないため、件数自体は過小評価されている可能性がありますが、事故の原因を推定するには十分な事例数があると考えられます。
報告書に掲載されている事例を、表1に示します。

これらのうち、1, 2, 8, 10が富士急ハイランドの相談窓口開設以前に把握されていたものです。事故事例の特徴として、
- 6件はループ部で、1件はカーブ部(大バンクカーブ(=ハイバンク)直後にループがある)で発生
- 首の負傷が多い
- 2両目の乗車が多い(1両目は座席が無いため、事実上の先頭車両)
- 全てホイールキャリアの変更開始後に発生(ホイールキャリアの変更は期間に幅があるが、実際にホイールキャリアの変更が行われた車両で起きた事故かどうかは明記されていない)
といったものがあります。また、始業前に走路、車両、制御システムの点検を行っており、1, 2, 8, 10の報告後には、再度走路、車両の点検が行われていますが、いずれも異常はなかったとされています。
筆者個人の感覚としても、ホイールキャリア変更後の2021年1月と3月に乗車した際には、ループ進入時に首が前に振れ、強く押さえつけられるような力を感じています。
事故調査報告書の調査結果
事故調査では、実機を用いて、加速度の測定と、自動車衝突用ダミー人形にかかる応力の測定が行われました。レールの異常については、目視で確認が行われていますが、歪み、段差等は確認されていません。
まず、旧ホイールキャリア車両の加速度の測定結果が示されています。

図6を見ますと、ループの上り坂に差し掛かったところで、Z方向の加速度が急激に立ち上がっていることがわかります。振動の周波数は表2に示す通り6.7Hzですから、わずか0.07秒程度の間に、4G近い加速度が一気にかかっていることになります。
続いて、新ホイールキャリア車両の加速度測定結果が示されています。これを、図7として転載しています。

図7 (a) 全走行時間に対する新ホイールキャリア車両2両目における加速度の測定結果、(b) (a)中矢印で示された領域の拡大図[1]
やはり、ループ入口において、急激に約4Gがかかっていることがわかります。ただし、最大加重は旧ホイールキャリアと比べて小さく、代わりに最低荷重が0G付近になっています。
ここで、報告書は振動の周波数に着目しています。Z方向の振動の周波数を表2にまとめています。

ホイールキャリアの変更によって、振動が低周波数側にシフトしていることがわかります。事故報告書では、この振動の周波数が、被害者が負傷に至った主要な原因の1つであると推定しています。文献[7]を引用して、着座姿勢時の頭部の鉛直方向の共振周波数が4.5 – 5 Hz程度であること、ピッチ方向の共振周波数が5 – 5.7 Hzであることから、これに近い振動の周波数であったことが、頸部に作用する圧縮荷重及び屈曲モーメントを増大させた、と考えているのです。
この推定は、
- 旧ホイールキャリアで事故が発生しておらず、旧ホイールキャリアよりも新ホイールキャリアの方が人体の共振周波数に近いこと
- 2両目で負傷した方が多く、かつ2両目と3両目以降の最大加重は同程度でありながら、2両目は3両目以降よりも振動減衰が遅いこと(データは報告書[1]に掲載されている)
によって補強されています。
ただし、上記の文献[7]の数値は、背もたれの無い椅子に座った状態であって、背骨を湾曲させた状態のものであることに注意が必要です。一般に、背もたれに寄りかかり、かつハーネスで固定された状態では、共振周波数は高まると考えられます。今回の事故については、正しい姿勢を保持できていなかったと推定される例が多いことから、この文献値を採用していると考えられます。
報告書では、さらに、自動車衝突試験用ダミーを用いた検証も行われています。ダミーには、Hybrid-III 5th percentile Female(ダミー1)とHybrid-III 50th percentile Male(ダミー2)が用いられています。なお、頭部の共振周波数はおよそ10 Hzで、人体の共振周波数とは異なるため、結果には共振による振動の増幅が含まれていない点には注意が必要です。試験のジオメトリが図8に示されています。

図9にダミー1の試験結果、図10にダミー2の試験結果を掲載しています。


この結果から、Y軸周りの屈曲モーメントと、Z軸方向の圧縮荷重とがピークを揃えてかかっていることがわかります。ただし、Nijは0.16で、自動車事故における負傷の基準と比較すると、低いものです。ダミー試験では、一見すると安全な範囲にあるように見えますが、共振周波数の違いなどによって、低いNijであっても負傷につながり得ることを示しています。
筆者の考察
報告書では、慎重に推測を避けた議論が行われていますので、これ以上踏み込んだ議論はなされていませんが、ここでは推測を交えて、もう一歩踏み込んでみます。報告書では、事故についていくつかの要因が示されています。
- コロナ禍に多く発生したため、マスクに気を取られたこと、直前にトンネルがあって先を予見できず、身構えられなかったこと
- 胸まで固定し、首が自由であったことから、首に外力が集中したと考えられること
- 屈曲と圧縮がピークを揃える形で、かつ人体頭部の共振周波数に近い周波数で印加されたこと
ただし、先述の通り、共振周波数が[7]の値になるのは、背もたれが無く、かつ力が入っていない場合です。また、ループ入口部では、極めて大きな荷重変化が起きています。カーブにおける振動によって背もたれに背中を強打した、という報告もあることから、まずは大バンクでの振動によって身体が背もたれから離れ、その後はループ入口部まで前方傾斜であることから姿勢が戻されず、さらにループ入口部において、人体頭部の共振周波数と同じ周波数で、急激にプラス荷重がかかったことで、負傷に至ったのではないかと考えます。
これを踏まえますと、対策として最も根本的なのは、共振周波数を高めることです。車両自体の共振周波数を高めることはもちろん重要で、全体の剛性を高めていくことが求められます。車輪周りの可動部についても、共振周波数を下げるような要素が無いかを確認することが重要です。
車両だけではなく、コースレイアウトについても、急激なGの変化が無いようにする必要があります。連続する振動ではなく、単一の負荷印加であっても、共振周波数に近ければ負荷が増幅されます。コースレイアウトは、このような単一の負荷印加による振幅増幅をもたらす恐れがあります。共振周波数は、体格の違いや力の入れ方、座席形状やハーネスの固定方法、乗車姿勢などによって大きく変わります。数Hz~10Hz程度の大きな力の変化は避けるべきであろうと考えらえます。
座席形状やハーネスについても、共振の可能性を視野に入れた設計が必要です。拘束すればするほど、人体の共振周波数は高まりますが、きちんと固定できていることが前提になりますし、解放されている頭部などに負荷が集中しやすくなります。一方で、拘束部位が少ないと、共振周波数が低下します。振動設計と組み合わせて、人体の共振を制御しなければなりません。
乗車姿勢は一つの要因になりますが、これを設備のメーカーや所有者がコントロールすることは、極めて難しいです。乗車前に姿勢を保持するよう説明はすべきですが、これはあくまで責任回避の手立てにすぎません。事故はメーカー、所有者ともにレピュテーションリスクに直結しますから、責任回避ができたとしても、何らかのダメージが発生します。事故を完全に防ぐには、乗り物側の設計が重要です。
参考文献
[1] 「山梨県内コースター事故調査報告書」国土交通省 社会資本整備審議会 (2024), https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001749602.pdf
[2] 「逆走したFUJIYAMA!!」 人生は究極の絶叫マシン, 2007年4月29日投稿、2026年2月1日閲覧、http://coaster.blog90.fc2.com/blog-entry-18.html
[3] 「ド・ドドンパ緊急停止 タイヤパンクか」毎日新聞、2026年2月1日閲覧https://mainichi.jp/articles/20170717/k00/00m/040/043000c
[4]「富士急ハイランドで「ド・ドドンパ」逆走 けが人なし、速度不足が理由」サンスポ、2026年2月1日閲覧https://www.sanspo.com/article/20200129-HPTTJRKICZNHJBLLSO34KXJHKI/
[5] 「失禁注意!! 3.75G加速と圧縮空気の衝撃…富士急ハイランドのジェットコースター『ド・ドドンパ』 7月15日始動」Response, 2026年2月1日閲覧, https://response.jp/article/2017/07/14/297434.html
[6] 「富士急ハイランドお客様相談窓口開設後に寄せられた負傷の相談について」富士急ハイランド(Way back machine), 2024年10月5日分のアーカイブ, 2026年2月1日閲覧, https://web.archive.org/web/20241005121134/https://www.fujiq.jp/news/h5f6de000002r4zg.html
[7] G. Tamaoki, T. Yoshimura, J. Society of Biomech. Japan, 41 (2017) 9.


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