「ジャングリア沖縄」見落とされがちな失敗因子#X 低コストなのに700億円?

Author: Yu Shioji (塩地 優)
Article type:
Column(コラム)
Article number: 250008

2025年7月、沖縄に新たなテーマパーク「ジャングリア沖縄」がオープンする。P&Gで培った、数学的なマーケティングのスキルを活用して、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを経営危機から救い、V字回復。万年赤字だったグリーンピア三木をネスタリゾート神戸に転換して黒字化、西武園ゆうえんちのリニューアルを行って集客増、お台場にイマーシブ・フォート東京を開業など、テーマパークに関わる様々な実績で知られる森岡毅氏が率いる株式会社刀。その刀が、長年温めていた沖縄テーマパーク事業を、ついに具現化する。実績を見ると、失敗の要素が無い事業のようにも思えるが、本当なのだろうか。落とし穴はないのか、地元の懸念なども踏まえてみていこう。

今回は番外編で、コストのかからないアトラクションが多い理由を考えてみよう。というのも、投資額700億円というのは、テーマパークとしては比較的大きい額にもかかわらず、施設にはコストがかかっているように見えないからだ。

この解説は、一般誌寄稿用原稿に、大幅に加筆修正したものです。文体が通常と異なること、正確性よりわかりやすさを重視していることをご了承ください。

UnsplashArtem Beliaikinが撮影した写真
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700億円は、決して安くない

ジャングリア沖縄の投資額は、700億円。刀やジャングリア沖縄を運営するジャパンエンターテイメントは、「投資額を抑えた」という表現をする。比較対象としてあげられるのは、大手テーマパークだ。例えばディズニーシーのファンタジースプリングスの投資額が3,200億円だということを考えれば、確かに安い。1エリアの1/4以下だ。

しかし、ジャングリア沖縄は年間100万人規模のテーマパークだ。年間1,000万人以上を集客するテーマパークと投資額を比較して良いはずがない。比較すべきは、同じく100万人~数百万人規模のテーマパークだ。例えば、200万人弱の規模であるレゴランドジャパンの総投資額は、約320億円と言われている。ジャングリア沖縄の半額以下だ。にもかかわらず、24のライドアトラクションと、複数のウォークスルーアトラクションや、大規模なレゴの展示、複数のアスレチックなど、ジャングリア沖縄よりも多くの施設を備える。

一時は100万人規模の集客を誇った東京ジョイポリスは、開業時100億円前後の投資額だと思われる。商業施設内立地で、賃料負担が重いという特徴はあるものの、圧倒的に投資効率の良い施設だ。なお、横浜ジョイポリスは70億円の投資で、初年度売上高85億円を目指していた。

上記2施設ができた頃と比べると、現在は建築費が高騰しています。ただし、ジョイポリスは建築要素が少ない施設で、アトラクション投資が大きな割合を占めると思われます。また、レゴランドは汎用機を用いたアトラクションが多く、これらの価格は現在も大きな変動が発生していません。こうした事情を考慮して、ここでは建築費の補正係数を用いず、単純比較を行っています。現在、同じものを作ろうとすると、建築費高騰分を単純にかけるよりは安いが、当時の金額よりは高い、とご認識ください。

既存の遊園地をリニューアルすることを考えてみよう。大型ローラーコースターは、30億円-50億円程度だ。700億円あれば、大型コースターを20機も設置できる。あるいは、小型のスリルライドは、数億円で導入可能だ。700億円で数百機導入できてしまう。700億円というのは、大型遊園地のアトラクションを、丸ごと入れ替えても余るくらいの金額だ。

傾斜地はお金がかかる

ジャングリア沖縄にできるアトラクションは、総額で100億円もかかっていないのではないかと思われる。恐竜ジープに用いられる、アニマトロニクスの質次第ではあるが、それ以外は極めて少額の投資で済むアトラクションだ。では、どこにお金がかかっているのだろうか。

それは、おそらく土地の造成やインフラ整備だ。ジャングリア沖縄は、ゴルフ場の跡地に作られている。約30mの標高差がある土地だ。こうした傾斜地は、造成に多額の資金が必要になる。また、ゴルフ場だと上水は整備されていても、電気やガス、下水は整備が必要になる。

古いデータだが、志摩スペイン村パルケエスパーニャは、総投資額600億円のうち、300億円を造成とインフラ整備、建物に費やしている。こちらも、当初は約400万人を集客したものの、現在は100万人前後で推移している施設だ。パルケエスパーニャは、おおよそ30haの土地で、やはり30m程度の標高差がある。

これに対して、ジャングリア沖縄は60haの敷地面積を誇り、そのうち30haを第1期に当てる。ただし、初期段階で60haすべてを造成している形跡がある。傾斜が5度前後の土地なので、造成費用を1m2あたり2万円と見積もると、60haで120億円となる。インフラ整備や周辺道路整備、大きな建物を建築していることまで含めて考えると、アトラクションを除いて600億円超でも、不思議な金額ではない。そもそも、傾斜地で、インフラも整っていない山奥に作ること自体に問題があるのだ。

ジャングリア沖縄は、傾斜地でありながら、造成を必要としないアトラクションを多数導入することで、コストを抑えた、と言っている。しかし、ゴルフ場のうねった土地を、そのまま用いることができたエリアは、少ないはずだ。人が歩くところは、一定以下の傾斜に抑える必要があるし、建物は平らな地面が無ければ建たない。傾斜地は、うまく利用しても平地に作るよりコストがかかる、という事実に変わりはない。また、傾斜を活かした設計というのは、パルケエスパーニャやレオマワールド、御殿場ファミリーランドや鷲羽山ハイランドなど、各地に実績がある。与えられた土地をポジティブに解釈することは重要だが、それによってコストが下がるわけではない。

傾斜地は転用が難しい

実は、平地に設置する遊戯機械は、比較的容易にリニューアルができる。既に平坦な路盤が形成されているので、既存のアトラクションを撤去し、新たな遊戯機械を組み立てて、路盤に締結済めば済む。

一方、傾斜地をそのまま利用している場合、その傾斜地の分布や斜度によって、用途には制限がかかる。ある傾斜地を利用するアイデアが、無数にあるのであれば問題はないが、普通はそのような無尽蔵なアイデアは浮かばない。例えば、バギーなら走破できる斜面があったとする。そこを、透明な球体に入って転がるアトラクションに転用しようと思っても、傾斜がきつすぎてできない。傾斜地をそのまま活用する場合、傾斜地の特性によって、作ることができるアトラクションが限られてしまう。

一見、そのまま使えば良いように見えて、そのまま使おうとするとアトラクションの入れ替えが難しい施設になる。特に、20年、30年と長期にわたって運営していくことを考えると、その制約は非常に厳しいものになる。後になって、造成しなおすコストに耐える資金が残っていれば良いが、それだけの投資余力を確保できないと、アトラクションの入れ替えはできない。

日本のテーマパーク好適地は、海岸沿いの工場跡地

国内の大手テーマパークは、すべて埋立地にある。埋立地であれば、最初から平地であって、大規模な造成は必要ない。ディズニーに関しては埋め立てから負担が発生しているが、USJは埋立地の工場跡地、レゴランドジャパンは埋立地の駐車場跡地だ。スペースワールドは、湾に近い製鉄所の事業用地だ。

海辺の工業地帯は、貨物用の鉄道や、高速道路など、人を運ぶインフラのベースとなる施設が整っている。造成もほとんど必要ない。大手テーマパークが海岸沿いに立地するのには、理由がある。もちろん、工場跡地には特有の問題がある。水質や土壌の汚染など、環境面でのトラブルだ。USJはこれに苦しめられたし、土壌の入れ替えが必要になれば、多額の費用がかかる。それでも、交通インフラなどの整備具合を考えれば、他に選択肢は少ない。

ジャングリア沖縄は、こうした常識を覆そうとしている。山奥の傾斜地という、不利な立地に対して多額の投資を行う一方、アトラクションへの投資を抑制したテーマパークを成立させようとしている。これが成立すれば、山間部が多い日本の土地活用に、新たな可能性が加わることになる。しかしながら、単純に見れば、総投資額に対して正味の投資額が低い、効率の悪い投資に見える。

果たして、やんばるの植生には、このような正味の投資額の低さを補うほどの魅力があるのだろうか。

引用方法

引用時は、下記を明記してください。

Yu Shioji, J. Amusement Park (2025) 250008.

利益相反

本稿に関わる利益相反はありません。

コメント

  1. 荒木荒木 より:

    徐々に採用担当チーム能力のキャパ越えによる荒さ雑さが目立ち雇用される側への賃金も明らかになりつつあり採用辞退者の続出の大波が押し寄せつつあるのでは?

    • 塩地優 塩地優 より:

      荒木様

      コメントありがとうございます。
      賃金も、様々な職種・職位で募集していて、職位を決めるのはジャングリア側なので、予想とかなり異なる事態というのは想像できますね。
      もし何か情報をお持ちでしたら、メール等でも構いませんので、是非お知らせください!

  2. まつたけ より:

    施設等の建設費について、コロナ禍/東京五輪に境に急激に上昇し、同じものを建設するとなっても以前の1.5倍〜2倍ほどコストがかかるようになりました。
    (ファンタジースプリングスの投資額も当初予定の2500億円から3200億円に膨れたのもそのような理由かと思います)
    そのため、コロナ禍/東京五輪以前に造られたレゴランドやジョイポリスと比較する際は、そのような背景を留意する必要があると思います。

    • 塩地優 塩地優 より:

      まつたけ様

      コメントありがとうございます。

      仰る通りではありますが、特に遊戯機械については、1.5倍までは価格が上がっていない状況です。(輸入品価格は上がっていますが)。遊戯機械の場合、平らなコンクリ路盤があれば、大型のローラーコースターなどを除けば、機械の組み立てとアンカー打ちでできてしまいますので、レゴランドやジョイポリスと同じものを作ろうとした場合、建設費の高騰分ほどの係数は必要ないことになります。
      単純に建設費の価格で比較をすると、その係数を見落としてしまうので、今回は単純比較を行っています。
      ジャングリアの場合は、高騰した建設費の影響をもろに受ける、大規模な造成工事やインフラ工事などを行っていることが、一つの要因になっていることは間違いないと思います。この時期に、建設工事費がかかりやすいものを作ろうとしている、ということに問題があると言えるかもしれません。

  3. まつたけ より:

    ご返信ありがとうございます。
    確かに既製品の国内製遊技機械はそこまで価格が上がっていないかもしれませんね。
    その観点は無かったので勉強になります。

    ただ、私が携わってきたテーマパーク関連案件の中にもコロナ禍/東京五輪によって計画が大きく狂ったものが多数ありますので、コロナ禍以前から構想を練っていたジャングリアもかなりの打撃を受けたことは容易に想像できます。
    尤も、マーケティング集団の刀が自らそのようなネガティブな側面を明かすことはないと思いますが、どちらにせよこのような大型開発を行うには向いていない時期であることには変わりないでしょうね。

    • 塩地優 塩地優 より:

      ありがとうございます。

      よく考えてみますと、レゴランドはほぼすべて海外製なので、今作ると為替の影響をもろに受けて、50%程度アップするかもしれません。特にMerlinは、直接購買でコストを抑えているような気がしますし、もしそうであれば、代理店の吸収分が無いので、為替の影響をもろに受けます。

      ジャングリアは、ほぼ建設関係だけで成り立つパークなので、高騰の影響は相当受けているでしょうね。アトラクションに飲食までカウントしているような節があるのも、コスト削減の影響があったのかもしれません。沖縄の建設費も、もともと他県と比較して高いのに、さらに高騰を続けているとのことで、
      https://www.ahc-map.jp/blog/post339
      相当厳しそうですね。
      2023年に資金調達に奔走していた、という話もあるので、相当な追加資金が必要だったのかもしれません。
      時期も、沖縄という場所も、コスト面から見ると良いことは無さそうです。

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