Author: Yu Shioji (塩地 優) Article type: Article(研究) Article number: 240024
イマーシブ、没入という概念は、遊園地・テーマパーク業界や、演劇など、エンターテイメント業界を中心に、特に2010年代から強く意識されてきました。VRやARなど、バーチャル空間への没入が意識されることもありましたが、2024年は、USJの再建で知られる森岡氏率いる株式会社刀がイマーシブ・フォート東京を立ち上げたり、東京ディズニーシーにディズニーの3作品に没入できる新しいテーマポートがオープンするなど、リアルな空間に再現された異世界への没入が大きな話題となっています。特に、「イマーシブ」を施設名に含むイマーシブ・フォート東京のオープンによって、イマーシブという言葉の認知度が大きく高まったと考えられます。そこで、2024/3/1のイマーシブ・フォート東京のオープンから3か月が経過した2024/6/1から、イマーシブという言葉の認知度、施設の認知度、イマーシブを認知していながら体験したことが無い方への理由の深掘りをするアンケートを実施しました。
本ページでは、調査結果の概要を公開しています。詳細や分析レポート、データは有償となりますが、別途noteにて販売しています。
- 調査方法
- イマーシブの認知に関する調査結果
- イマーシブ体験をしない理由の調査結果
- Q1:仕事や学校がお休みの日には、どのようなことをされていますか? 当てはまるものを3つまでお選びください。
- Q2:あなた自身の趣向についてお伺いします。お休みの日は、どのような過ごし方をされたいですか? 当てはまるものを選択してください。
- Q3:あなたは、趣味や余暇に1か月あたり、どの程度のお金を使っていますか? 過去3か月の平均金額をお答えください。ご家族と行動を共にされている場合は、ご家族分も含めた金額をお答えください。
- Q4:あなたは、「イマーシブ」体験ができる施設やイベント、サービス等を利用しようと検討したことはありますか?
- Q5:これまで、あなたが「イマーシブ」体験をしたことが無い理由として、当てはまるものを全てお選びください。
- Q6:以下の体験の中で、実際に体験してみたいと思うものを全てお選びください。
- Q7:以下の体験に対して、いくらまで支払うことができますか? 数字でお答えください
- 回答者の属性
- 結論
- 引用方法
- 利益相反
調査方法
調査方法: 調査会社のモニターを利用したインターネット調査
調査対象: 認知度 2,000人、認知かつ未体験者調査 180人
有効回答: 認知度 1,926人、認知かつ未体験者調査 180人
調査期間: 認知度 2024/6/1、認知かつ未体験者調査 2024/6/5~2024/6/6
認知度調査は、調査対象者の職種偏りを可能な限り小さくするため、土曜日に実施しています。認知かつ未体験者は、認知度調査によって絞り込んだモニターを対象とした調査のため、特に日程調整は行わず、認知度調査からの期間ができるだけ短くなるように調査を開始しています。
なお、モニターを利用したアンケート調査は、モニターの方にインセンティブが発生します。特に、認知度調査において「知っている」と回答した場合に、より報酬の高い調査の回答権を得られる場合があるため、認知度が高めに出るバイアスがかかります。また、「イマーシブ」という言葉は、エンターテイメント関係に限らず、オーディオやゲームなど、様々な場面で用いられることがあります。
本調査では、認知しているかどうか、認知レベルについての設問に加えて、具体的な施設名を問う設問を用いることで、evoked setに加えて、エンターテイメント関係の正確な認知をされている方の比率を求めています。
なお、回答者の年齢や職業、世帯年収等の分布は本ページ後半に記載します。年齢ごとの回答数が、人口分布と同じになるような割り付け方はせず、ターゲットとなる20代、30代の回答数が多くなるよう割り付けていますので、回答比率に日本の人口をかけても意味を持たない点はご注意ください。
イマーシブの認知に関する調査結果
Q1:あなたは、「イマーシブ」という言葉を聞いたことがありますか?
選択肢: 聞いたことがある、聞いたことはない
選択必須
この問いには、約17%の方が、「聞いたことがある」と回答しました。ただし、この結果の解釈には注意が必要です。このアンケートは、調査会社のモニターの方に対して、インセンティブが発生する形で行われています。一般に、こうしたアンケートは、「聞いたことがある」と回答した人に対して、深掘りするアンケートが行われることが多く、深掘りアンケートは報酬が高いことが多いため、モニターの方にはこうした設問で、「知っている」と回答するようなバイアスがかかります。ですから、この結果をそのまま素直に受け取ることはできません。
この設問は、あくまで一般的な「認知度」を調査するためのもので、対象者が正確に認知しているかどうかは、別の設問で確認しています。
Q2:あなたの「イマーシブ」という言葉への理解度として、最も当てはまるものを選択してください。
対象者: Q1で「聞いたことがある」と回答した方(320人)
選択肢: 「具体例を交えて他人に説明できる」、「他人に説明はできないが、具体例をあげられる」、「具体例はあげられないが、なんとなく理解している」、「聞いたことはあるが、どんなものかはわからない」
選択必須
「聞いたことがある」と回答した方への問いですが、その理解度の自己評価は、「聞いたことはあるが、どんなものかはわからない」という回答が多数派でした。一方で、具体例をあげられる、と答えた方は全体の32%。「没入」という漠然とした概念であることもあって、言葉の拡散に理解が追いついていない状況が見て取れます。
Q3:「イマーシブ」と聞いて、思い浮かぶ施設やイベント、サービスがあれば、その名称を3つまでご記入ください。思い浮かばない場合は、「なし」とご記入ください。
対象者: Q1で「聞いたことがある」と回答した方(320人)
何らかのイマーシブ関係ワードを記入された方: 106人
「聞いたことがある」程度のぼんやりとした認知とは結び付きませんが、具体的な施設名をあげることができる程度に認知している方は、Q1の認知度と比べて非常に低いことがわかります。なお、ワードを記入された方の年齢分布と、日本の人口年齢分布から計算しますと、日本全国に、具体的なイマーシブ施設名をあげることができる方は400万人程度いると推計できます(年齢ごとの回答割合等はnoteの有料記事で公開しています)。この結果は、小規模なミュージアムやシアターにとっては十分に大きな値ですが、日に1,000人以上の来場を見込むテーマパーク施設にとっては、かなり小さい値です。このため、想定以上に認知で苦戦している様子がわかります。
施設名の内訳を見ますと、イマーシブ・フォート東京が全体の59%を占めます。なお、イマーシブ・フォート東京と判定した回答の中には、「イマーシブポート」「イマーシブフォト」「お台場に刀が作った施設」「お台場」などの回答を含みます。「お台場」という回答は、チームラボの施設や東京ジョイポリスなど、没入性の高い施設である可能性も考えられますが、アンケートの時期、その他の回答の傾向等から、イマーシブ・フォート東京に組み入れています。なお、「イマーシブ・フォート」または「イマーシブ・フォート東京」と回答した方(中点無しを含む)は、63人中30人でした。テレビなどで認知して、何となく知ってはいるけど、正確な名称までは覚えていない、という方が多いようです。
ミュージアム類では、ゴッホ・アライブを指すと思われる記述が複数ありました。その他、NAKEDやチームラボ(「イマーシブラボ」表記をチームラボの誤記と判断)など、オリジナルのデジタル芸術関係に関する記述もあります。こちらは認知を急速に広げた施設があるわけではなく、様々な施設がイマーシブとして認知されたり、あるいは新しい展示スタイルが徐々に認知されていっている様子がうかがえます。
シアター類については、具体的な記述はありませんでした。
その他の記述としては、
- オンキョー (イマーシブ・オーディオ: マルチチャンネルオーディオの別名)
- ダイソン(清掃状況を見るAR技術を指すと思われる)
- KDDI(メタバース関係で「イマーシブ」というワードを使ったことがある)
などがありました。これらは、正確な認知であるかどうかは確認できませんが、メタバースに関連したサービスを提供しているため、誤答ではないと判定しています。
誤答の例としては、
- イマーシブ・アクション(アファーマティブアクションの誤り。後の設問に「政治活動」という回答あり)
- 無料(オール・インクルーシブの誤り)
- ワタミ(オーガニックランドを指している?)
- バリエーション(何の誤りか不明)
といったものがありました。
なお、この設問は、いわゆるevoked set(イマーシブと聞いて、何を思い浮かべるか)を問う設問でもあります。ただし、イマーシブ・フォート、ミュージアム、シアターはそれぞれほぼ排他的に回答されていて、重複は数名程度のごく少数でした。各回答者の中で、イマーシブという言葉が特定の施設を指す言葉として定着しているようです。それぞれの施設にとってのマーケティングとしては、外出先のevoked setの中に含まれることが重要ですが、イマーシブという言葉の広がり方は今回の設問でとらえることができます。すなわち、1つの概念を伴っているわけでも、1つの施設をイマーシブと呼ぶ状態で広まっているわけでもなく、人によってさまざまな解釈、様々な施設を指す言葉として広まっている状態です。ですから、イマーシブをマーケティングワードとして用いる場合には、認知している方の間でも、解釈に幅があるという点に注意が必要です。
Q4:あなたは、「イマーシブ」体験ができる施設またはイベント、サービスを、実際に体験したことがありますか?
対象者: Q1で「聞いたことがある」と回答した方(320人)
選択肢: 「ある」、「ない」
選択必須
経験ありが46名で、全体の2.3%でした。回答者の年齢分布から人口比に直しますと、200万人弱ということになります。設問をこの順番で設定していますので、ここで経験が「ある」と回答された方は、1名を除いて前の設問で具体的な施設名をあげた方でした。具体的な施設名をあげることができる人のうち、半分程度は経験したことがある、という結果です。想起できる方のうち半分が経験している状況というのは、「一巡した」と言って良い状況だと思われます。したがって、今後の集客にイマーシブというワードを利用していくためには、認知の増加とリピーターの獲得が絶対条件になってきます。
Q5:あなたが「イマーシブ」という言葉から思い浮かべる体験のジャンルに当てはまるものを、全て選択してください。また、そのうち最も当てはまるものを1つ選択してください。
対象者: Q1で「聞いたことがある」と回答した方(320人)
選択肢: 「演劇」、「ミュージカル」、「美術館」、「映像シアター」、「謎解き・脱出ゲーム」、「お化け屋敷・ホラーアトラクション」、「遊園地・テーマパークのショー」、「遊園地・テーマパークのライドアトラクション(乗り物)」、「飲食施設」、「その他」
選択必須
複数選択では、演劇やミュージカル、なぞ解き・脱出ゲームを思い浮かべる方が多いのに対し、最も当てはまるものという問いに対しては、映像シアター、なぞ解き・脱出ゲーム、演劇という回答が多くなりました。いずれにしても、なぞ解きという選択肢を与えられ、これがイマーシブに含まれるという情報を与えられた後では、なぞ解きを選択する方が非常に多い、という結果になっています。
なお、「その他」の選択肢を設けていますが、「わからない」以外の回答はありませんでした。
イマーシブ体験をしない理由の調査結果
続いて、イマーシブを認知しているけれども、体験したことが無い方に対して、なぜ体験したことが無いのかをお伺いしました。
当調査の対象者は、当初はイマーシブ施設を具体的に記入された方を対象とする予定でしたが、想定以上に回答者が少なかったため、「イマーシブ」という語の認知レベルとして、「何となく理解している」以上と回答された方及び、具体例をあげられた方を対象としました。そのうち、180名の方にご回答頂いています。
Q1-3で対象者の休日の過ごし方や性格について、Q4-6で行ったことが無い理由、Q7でイマーシブ・シアターに対してどの程度の金額を支払うことができるか、伺っています。
Q1:仕事や学校がお休みの日には、どのようなことをされていますか? 当てはまるものを3つまでお選びください。
選択必須
特にイマーシブ認知・未体験者に特有の傾向は見られませんが、近年はテレビや音楽、ゲーム、SNSなど室内で、お金のかからないことをして過ごす方が多いという一般的な傾向がみられます。他方で、ショッピングや旅行、グルメなどの外出をされる方も一定数いらっしゃる、という状況です。遊園地やテーマパーク、動物園や水族館を上位3位までにあげる方は、非常に少ないことがわかります。あくまで、多くても年に1回~数回程度の訪問であって、多くの方にとっては定期的に訪れる場所ではない、と解釈できます。
Q2:あなた自身の趣向についてお伺いします。お休みの日は、どのような過ごし方をされたいですか? 当てはまるものを選択してください。
順番ランダマイズあり(表示される縦方向の項目の順番が人によって異なるため、前の項目の影響を抑えることができます。今回は、相対する項目が複数あるため、ランダマイズを実施しています)
こちらも特段、明確な傾向があるわけではありません。その他の設問との関係性を見るための設問です。強いて言えば、相反する場合が多い項目についても、両立させたいという意図が見えます。これは、希望としては理想を追い求める形で、決して矛盾しているわけではありませんが、一方で他の設問との関係性を見る場合には注意が必要です。その方が実際にどういう行動をされるかではなく、あくまでどういう行動を理想としているか、という回答になっていますので、それを踏まえた解析が必要です。そこで、特に気になる、お休みの日の支出額については、次の設問で問い直しています。
Q3:あなたは、趣味や余暇に1か月あたり、どの程度のお金を使っていますか? 過去3か月の平均金額をお答えください。ご家族と行動を共にされている場合は、ご家族分も含めた金額をお答えください。
選択必須
2,000円~50,000円の範囲がボリュームゾーンで、2,001円~5,000円、5,001円~10,000円、10,001円~20,000円、20,001円~50,000円のいずれも16~19%で拮抗しています。設問の難易度が少し高いため、誤答(過去3か月の合算値を答えている)の可能性も排除しきれませんが、2万円を超えるのは全体の26%。1万円を超えるのも42%ということで、必然的に価格帯が高くなるイマーシブ関係の施設に対する支出に耐える方というのは、決して多くないことがわかります。
Q4:あなたは、「イマーシブ」体験ができる施設やイベント、サービス等を利用しようと検討したことはありますか?
選択必須
選択肢: 「検討したことがある」、「『行ってみたい』と思ったことがある」、「『行ってみたい』と思ったこともない」
こちらもやや厳しい結果で、「行ってみたい」と思ったこともない、という方が46%を占めました。約半数が「行ってみたい」とすら思っていない、ということで、これらの方には、かなり深いアプローチを取らないと、行動を促すことはできない可能性が高いです。一方で、半数強の方は実際に検討をしたり、あるいは「行ってみたい」とは思ったことがあるということで、最後の一押しが足りていない状態です。
本調査の対象者は、人口比に直すと約700万人となります。そのうち、約半数が「行ってみたい」と思ったことがある、ということで、約350万人を超える方が、潜在的な顧客となり得る、と考えられます。ただし、積極的に情報を収集しているわけではない可能性が高いため、これらの方へのアプローチ方法は、慎重に検討が必要です。
Q5:これまで、あなたが「イマーシブ」体験をしたことが無い理由として、当てはまるものを全てお選びください。
選択必須
項目ランダマイズあり
行かない理由は、「自宅の近くにない」、「混んでいそう」、「価格が高い」がトップ3でした。その他の回答には、「ほかに優先したいことがあるから」に相当するもの、「コミュニケーション」あるいは「ホラー表現」に相当すると思われるものが1件ずつありました。
また、「一緒に行く人がいない」、「何ができるかわからない」といった回答も多いことから、1人では行きにくいと思われているとともに、認知者であっても理解が浸透していないことがわかります。イマーシブは、本質的にはその世界に没入してしまうため、同行者の有無が体験価値を左右することは比較的少ないのですが、そういった理解も含めて、正確な理解の浸透が必要な状況だと考えられます。
Q6:以下の体験の中で、実際に体験してみたいと思うものを全てお選びください。
選択必須
続いて、いくつかのイマーシブ体験を説明し、そのニーズを問う設問です。突出して高いのが、「視野いっぱいに映像が広がるシアター」です。これ自体は、古くはシネラマなど、1950年代に開発された技術から脈々と進化を続けていまして、現代では少し大きなシネコンに行けば、「IMAX」として楽しむことができます。また、テーマパークでも、東京ディズニーシーの「ソアリン」(2019年)や、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの「ミニオン・ハチャメチャ・ライド」(リニューアル前のアトラクションは2001年)など、以前からIMAX方式の映像を楽しむことができますし、以前は各地のジョイポリスやネオジオ系の施設にも「アイマックス・ライドフィルム」というアトラクションがありました。ですから、これは改めて説明されると「なんかすごそう」となりますが、実際には意識せずに体験してしまっている場合や、具体的なイメージができていない場合があると考えられます。
続いて多いのがライドアトラクションですが、これも例えばユニバーサル・スタジオ・ジャパンの「アメージング・アドベンチャー・オブ・スパイダーマン」(2004年)など、決して新しくはないアトラクションですし、解釈によっては日本の様々な遊園地にもある、ととらえることができます。そもそもライドアトラクションにニーズがある、ということは否定できないと考えますが、一方で語感の凄さでチェックを付けているけれども、上記と同様、具体的なイメージまでたどり着いていない場合があると考えられます。
お化け屋敷については、イマーシブなお化け屋敷と、通常のお化け屋敷との差分を明確化できなかった筆者の項目設定が悪い部分もありますが、他と比べるとニーズは低め、観客が一緒になって踊れるタイプのショーも、やはり字面だけ見ると恥ずかしい部分が多いのか、ニーズは低めとなっています。「実際に体験してみると、イメージと全然違う」というのがイマーシブ系施設の醍醐味でもあり、魅力を伝えるうえでは弱さでもある、というのがよくわかる調査結果です。
Q7:以下の体験に対して、いくらまで支払うことができますか? 数字でお答えください
あなたが物語の登場人物の一人となって、セットの中を動き回り、役者とコミュニケーションを取りながら観る演劇
・上演時間: 90分
・役者: 15人 いずれもプロの役者
・観客: 60人
イマーシブ・シアターに対する価格感度を見る設問です。イマーシブ・シアターを知らない方にとっては、やや説明が不足していますが、感想が伴わなければ、一般に要約するとこの程度の情報になるだろう、という情報のみを与えて、いくらまで支払えるかを問うています。人数等は仮の値ですが、観客/演者の比率は、ややリッチな割合になる設定をしています。調査のやり方によっては、ここに通常の演劇の価格帯を提示することで、演劇の形態によってどれだけのプレミアが得られるかを問う方法もありますが、ここでは演劇好きの方ではなく、一般の方を対象とした調査ですので、単純にイマーシブ・シアターの価格を問うています。
結果は、2,001円-5,000円が多数派。残念ながら、10,000円以上支払える、という方は少数派でした。当然、イマーシブ・シアターはコストがかかるのですが、広く一般層にその受容性はないようです。一方で、前述の通り、話で聞くのと実際に体験してみるのとでは、全く異なるのがイマーシブ・シアター。これからゆっくりと広まっていくことで、徐々に理解が浸透し、価格の受容性も上がっていくかもしれません。
回答者の属性
回答者は、ターゲットになると思われる20代、30代が最多となるように配分しました。男女は同数から回答を取得していますが、無効回答がある関係で、有効回答数は同数にはなっていません。10代は、15歳以上の方からのみ回答を取得しています。
居住地域には、特に制限を設けていません。基本的には人口分布に従いますが、オンライン調査自体の認知度や意欲の違いなどが発生することから、完全に人口分布通りにはなっていません。
職業も、特に明確な傾向があるわけではありませんが、若い方が多くなるような回答者分布としているため、学生やパート・アルバイトの方が、日本の職業比率と比べると多いという特徴があります。
世帯年収の分布は、やはり若い方が多いためにやや低めに出ているはずですが、明確な傾向までは見て取ることができません。
無効回答の選定方法
自由記述欄に、明らかに無関係な回答がある場合(野球選手名など)や、「いろいろ」などのように不真面目な回答がある場合、数字の羅列など意味不明な回答がある場合、後の設問の選択肢をコピペした回答がある場合、回答者属性に設問の勘違いがある場合は、無効回答として集計から除外しています。
結論
イマーシブという言葉の認知は、イマーシブ・フォート東京の開業効果から期待されるほどは広まっていない、という現状が見えてきました。当然、それ以前とは比べ物にならないほど認知されている、というのは間違いありませんが、「流行のワード」というよりは、「尖ったワード」の1つに留まっている、というのが正しい認識だと考えられます。その要因は複数考えられますが、もともとその概念が抽象的であるがために、具体的な感覚を伴って理解されず、記憶から抜け落ちてしまいやすい点、実際の行動に移されず、体験者が増えないために口コミによる拡散が弱い点、イマーシブ・フォートが孤軍奮闘状態で大規模なフォロワーが現れないために刷り込みが弱い点などがあげられます。
認知されている場合であっても、本質的な魅力の理解にまで至っていない場合が多く、それが原因で行動が伴わない、という状況も本調査で見えてきました。魅力が伝わり切っていないために、潜在顧客が支払える金額も小さく、逆に現状はその金額を上回るために集客に結び付きにくい、という状況です。多くのシアターがアーリーアダプターを対象にしている現状は、特に問題はありませんが、これをマスに広げていこうとする場合には、丁寧に魅力を訴求する取り組みが必要になると考えられます。
「イマーシブ」は、包括的ワードとしてはかなり苦しい状況にあります。一方で、特にイマーシブ・シアターは、他のワードでは代えがたい、一対一対応の取れた概念になってしまっていますし、非常に魅力の大きいスタイルです。言葉が劣化してしまうことなく、正しい理解が広まっていくことを願います。
より詳細な解析は、下記noteで公開しています。有償となってしまいますが、あわせてご覧ください。
引用方法
引用時は、下記を明記してください。
Yu Shioji, J. Amusement Park (2024) 240024.
利益相反
本稿に関わる利益相反はありません。