「ジャングリア沖縄」見落とされがちな失敗因子#5 交通渋滞

Author: Yu Shioji (塩地 優)
※当サイト内の論文・解説等は、すべて著者個人がデータ収集、解析、考察を行ったもので、いかなる文言も当会を代表するものではありません。
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Outreach(解説)
Article number: 2500010

2025年7月、沖縄に新たなテーマパーク「ジャングリア沖縄」がオープンする。P&Gで培った、数学的なマーケティングのスキルを活用して、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを経営危機から救い、V字回復。万年赤字だったグリーンピア三木をネスタリゾート神戸に転換して黒字化、西武園ゆうえんちのリニューアルを行って集客増、お台場にイマーシブ・フォート東京を開業など、テーマパークに関わる様々な実績で知られる森岡毅氏が率いる株式会社刀。その刀が、長年温めていた沖縄テーマパーク事業を、ついに具現化する。実績を見ると、失敗の要素が無い事業のようにも思えるが、本当なのだろうか。落とし穴はないのか、地元の懸念なども踏まえてみていこう。

第4回は、雇用上の懸念を考えた。第5回の今回は、交通渋滞が地域にもたらす影響を考える。

この解説は、一般誌寄稿用原稿に、大幅に加筆修正したものです。文体が通常と異なること、正確性よりわかりやすさを重視していることをご了承ください。

UnsplashIwona Castiello d’Antonioが撮影した写真
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渋滞は、集客にも、地域の安全にも影響する

交通渋滞は、集客に対して大きな影響を与えるとともに、地域住民にも不満をもたらす。

これまで、交通事情が集客に悪影響を及ぼした例として、横浜ドリームランドをあげることができる。横浜ドリームランドは、来園者のマイカー比率が、当時30%程度であった[1]が、最寄駅から徒歩では来園できない場所にあった。このため、モノレールを敷設したものの、設計のミスにより、1年半で運行停止。周辺の交通渋滞が慢性化していて、バス利用で最寄駅から1時間以上もかかっていた[2]。これによって、想定通りに来園者を増やすことができず、6年目には敷地の一部を売却することになった[1]。

ジャングリアは、横浜ドリームランドと比べれば、予想集客数は少ないが、近くには年間350万人を集める美ら海水族館がある。渋滞が発生することは、容易に考えられる。ジャングリアは、沖縄南部から車で1.5時間以上を要する立地だ。交通渋滞が重なれば、所要時間は2時間を上回る。これが慢性化して、その噂が拡散されれば、来訪意欲を削ぐことになりかねない。また、ジャングリアだけでなく、美ら海水族館への来訪意欲を削ぐことになれば、地域観光にも悪影響を与える。地域にとって、あるいは県にとって、看過できない状況に陥ることもあり得る。

地域住民にとっても、渋滞は大きな懸念だ。ジャングリアへ向かうルートは、名護市街周辺を通る。通勤時間帯に渋滞が発生すれば、地域は大きなフラストレーションをため込むことになる。加えて、ジャングリアへのアクセスに使われる、渋滞が懸念される道路は、本部町や今帰仁村から、地域基幹病院へと向かう、救急搬送ルートになっていることが指摘されている[3]。地域の安全に影響を及ぼすことになれば、大きな問題に発展しかねない。どの程度の渋滞が発生するのか、どういう回避策がとられるのかを把握しておくことは、極めて重要だ。

美ら海水族館への主要なアクセス道路と、ジャングリアへのアクセス道路が重なる

交通渋滞を考えるために、まずは地域の交通事情をおさらいしておこう。沖縄本島の那覇側から美ら海水族館に向かう場合、おおざっぱに3つのルートがある。

Google Mapより

沖縄自動車道を通ってきた車は、国道58号バイパス(名護東道路)を通るか、名護市街を通ることになる。名護市街は渋滞しやすく、時間が伸びやすいルートだが、カーナビが距離優先などの設定になっていると、案内されることがある。

続いて、本部半島の西側の海沿いを通る国道449号、山を突っ切る県道84号、東側の海沿いを通る国道505号の3ルートに分かれる。いずれも片側1車線の道路のため、比較的距離が短い県道84号は、主要な経路となる。沿道にナゴパイナップルパークやお菓子御殿の大型店などがあり、観光面でも重要な経路だ。この県道84号線が、ジャングリアへの主要なアクセス方法となる。

渋滞ポイントは危険性も高い

ジャングリアへアクセスする際の、渋滞ポイントは、主として2つある。

  • 名護東道路から右折して県道84号に入る交差点と、その先の連続する信号
  • 県道84号から右折してジャングリア前の道路へと入る交差点

これらの根本解決策は、名護東道路の延伸しかない。しかしながら、名護東道路の延伸は、国策として進められているものの、完成はジャングリアの開業から13年以上後になる[4]。部分開業という形で、ジャングリアまで先行して開業する可能性はあるが、それでも最低8年程度はかかると思われる。

名護東道路が延伸されるまでの間は、交差点の改良や、信号タイミングの調整によって対処しなければならない。特に問題になるのは、県道84号からジャングリア前の道路へと入る交差点だ。ここには、信号が無い。右折レーンは、ジャングリア開業後に整備される予定だが、その長さは43 m[5]。車は6台も入らない。付近に信号があるとはいえ、比較的交通量の多い道路だ。右折待ちで渋滞が発生することは、想像に難くない。ジャングリアの敷地内には、1,000台以上の駐車場が用意される[6]。開園時間帯に集中して車がやってくれば、容易に道路はパンクする。最低でも、誘導員の配置は必須だろう。それでも、無理な右折等によって、交通事故が多発する可能性もある。

名護市街から県道72号線を使えば、信号で右折し、左折でジャングリア前の道路へと入ることができる。しかしながら、この道路は中央線が無い場所もある、道幅の狭い道路だ。運転に慣れていないレンタカーが押し寄せれば、事故の発生が予見される。東岸の国道505号を通るう回路も考えられるが、こちらはかなりの遠回りをしなければ、離合に気を使うような細い道を通ることになる。多数の車を誘導する経路としては、不適切だろう。

道路のキャパシティをオーバーする

また、そもそも交通量が、道路のキャパシティをオーバーするため、交差点以外の区間でも渋滞が予想される。一般に、ピーク時1時間当たりの通行量が1,000台を超える場合、4車線化を考えるべきとされる[7]。ジャングリアの敷地内駐車場は、1,000台超だ。美ら海水族館のある海洋博公園の駐車場は、1,900台ある。繁忙期には、これが満車に近くなる。1日3回転として、3時間ほどで1,500台、1時間あたり500台程度が美ら海水族館へと向かう。うち50%、250台が県道84号を通過すると考える。また、ジャングリアを訪れる車のうち、7割が開園時間前後1時間に集中すると考えると、この2施設だけで950台が県道84号を通過することになる。一般交通も含めれば、ゆうに1時間あたり1,000台を超えることになる。これは、道路の規格をオーバーした交通量で、交通集中による渋滞が発生する。

当面は、県道84号の渋滞は避けられないと見るべきだろう。

渋滞対策が渋滞を緩和できない

ジャングリアは、どのような渋滞対策を講じているのだろうか。

まず、来場手段の分散を訴えている。船などで名護港まで向かい、バスで移動する。あるいは、2,000台以上の駐車場を用意し、そこからバスで向かう、といった形だ。しかしながら、場外駐車場は、少なくとも半数が名護漁港に用意される。パークアンドライドや海路の拠点となる名護漁港は、名護の市街地にある。ここからジャングリアにアクセスするためには、名護市街を抜け、県道84号または72号を通らざるを得ない。当然、場内に3,000台規模の駐車場を用意することと比べれば、渋滞は緩和されるが、場内1,000台でも道路のキャパをオーバーしている状態だ。同じような経路を多数のバスが通れば、渋滞はさらに激化する。加えて、名護市街を多数のバスが走ることになるため、地域住民にも大きな影響を与える。パークアンドライドの拠点は、再考が必要ではないだろうか。

海路の拠点を本部港に移しても、県道84号に入る交差点が渋滞ポイントだ。美ら海水族館へ向かう車の渋滞と重なることになる。海沿いの国道449号から県道72号に入るルートもあるが、県道72号は、前にも述べたように道幅が狭い。いずれのルートでも、渋滞が無い場合で30分はかかるため、本部港を利用する場合、海路でのアクセスは、那覇港から2時間を大幅に上回る。

また、バスの運転手などを、十分な数確保していないとの報道もある[6]。この場合、中型免許で対応可能な範囲で輸送を行う可能性もある。そうすると、運行台数は大型バスの2倍以上となる。台数が増えれば、その分だけ渋滞は伸びる。

必要な対策は

渋滞の緩和に最も効果的なのは、時間の分散だ。テーマパークは、一般に開園時間付近に来園者が集中しやすい。加えて、ジャングリアは入園後に整理券を取得する必要があるアトラクションを複数用意している。整理券を取得するために、開園時間前に来園が集中すると予想される。これは、渋滞を激化させかねない施策だ。

渋滞を緩和するためには、来園時間を遅らせることに対するインセンティブが必要だろう。例えば、チームラボの施設では、入場時間指定のチケットを販売し、入場時間が遅いほど料金が割り引かれるシステムを採用している。あるいは、整理券制のアトラクションを抽選制にして、入園時間が遅いほど、抽選の当選確率が高まるというインセンティブを与える方法もある。

いずれにしても、道路の改良を待つのではなく、来園時間を分散させる施策を打たない限り、来園者からも地域からも不評を買うことになるだろう。

参考文献

[1] 「なぜ、子どもたちは遊園地に行かなくなったのか?」白土健、青井なつき (2008) 創成社

[2] wikipedia 「横浜ドリームランド」2025年3月10日閲覧
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A8%AA%E6%B5%9C%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89

[3] 沖縄タイムス「ジャングリア開業で救急ルート渋滞の恐れ 片側1車線、搬送の9割で使用 「助からなくなる」と危機感」2025年3月10日閲覧
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1539294

[4] 沖縄タイムス「自動車専用の「全線バイパス」に 名護東道路の延伸案を決定 ジャングリア付近にIC 完成まで10~20年以上」2025年3月11日閲覧
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1541515

[5] 沖縄タイムス「「一企業ができることを超える覚悟で取り組む」 刀の森岡代表、ジャングリア渋滞対策に言及 那覇市で講演」2025年3月11日閲覧
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1539148

[6] 沖縄タイムス「何人? ジャングリアが1日あたりの来場者数の見通しを発表 駐車場の台数も」2025年3月11日閲覧
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1524074

[7] 国土政策技術総合研究所「車線数の決定方法」2025年3月11日閲覧
https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0317pdf/ks0317007.pdf

引用方法

引用時は、下記を明記してください。

Yu Shioji, J. Amusement Park (2025) 250010.

利益相反

本稿に関わる利益相反はありません。

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