Author: Yu Shioji (塩地 優) Article type: Commentary (解説) Article number: 230020
遊園地の収入とコストのバランスを見る連載の第3回です。
前回は、主に設備周りにかかる費用を概算しました。
今回は、ランニングコストとしてかかってくる費用、例えば人件費やエネルギー費などを考えていきたいと思います。ただし、参考文献等はあまりないジャンルですので、あくまで机上で、思考実験的に計算をしていきます。
対象とするのは、特に目新しい施策を打っていない、古典的な遊園地です。施策を打った時にどうなるか、というのは、また後々考えていくことにします。アトラクション数は前回の記事と同じで、大型ローラーコースター, 小型ローラーコースター, マウス系ローラーコースター, 観覧車, メリーゴーラウンド, ティーカップ, 回転系スリルライド, 汽車, シアターライド, シューティングライド, ゴーカートが各1個ずつ、キディライドが5個ある場合を想定します。
人件費
遊園地のランニングコストにおいて、大きな割合を占めるものの1つが人件費です。正社員かアルバイトか、あるいは派遣社員かなどによっても大きく金額に差が出てきますので、それぞれの雇用形態ごとに人数をカウントしていくことにします。
まずは、直接お客様の目に触れることは少ない、間接部門を見ていきましょう。
間接部門
経営層
まずは、経営のかじ取りを担う、経営層です。人件費的には、経営層はスリム化できるに越したことはないのですが、あまり減らしすぎると独裁化しやすく、企業のガバナンスに問題を生じます。
代表取締役社長、代表取締役副社長、取締役執行役員×3といった配置を想定します。副社長、執行役員は、それぞれ経理・財務、人事・総務・広報・法務、技術・情報システム、パークオペレーションを統括するものとして、社長はその全体の統括を行います。
本来であれば、企業統治上は常勤監査役も設置したいところですが、遊園地の規模的に苦しいということと、会社法上も必要にはならない規模を想定していますので、ここでは設置しないことにします。
役員報酬は平均2,000万円。雇用コストは3,000万円程度を想定して、5名で1.5億円。
秘書業務は社員1名、派遣社員2名で対応することにします。
経理・財務
数十億円単位の金銭のやり取りが発生しますので、経理・財務にもある程度の人数が必要になります。経理は支出管理と会計を行います。財務は、資金調達などを担当します。ここでは、経理担当に4名、財務担当に2名の正社員を配置します。
税務知識や会計知識など、一定のバックグラウンドを必要としますが、会計士級1名を除いて、資格手当のある通常の正社員待遇とします。会計士級については、専門職待遇で取り扱います。
また、サポート業務として派遣社員2名を雇用します。
総務
総務は、従業員の社会保険、福利厚生等、勤務環境の整備と事務手続き全般を担います。
正社員2名、派遣社員4名を雇用します。
人事
従業員の採用はもちろん、人材育成制度設計や、賃金制度、退職金制度の設計を担います。遊園地は労働集約型の産業で、かつアルバイト従業員の入れ替わりが激しいことに特徴がありますので、人事の負担が大きくなります。
正社員5名、派遣社員2名を雇用します。
企画・広報
企画広報では、広告宣伝等に加えて、イベントの企画立案も行うこととします。イベントはパークオペレーションに落とし込むところまでを担当しますので、煩雑な発注業務等も担うことになります。
同時に、調査や経営企画も担当することとします。
正社員5名、派遣社員3名を雇用します。
法務
あまり大きくない企業とはいえ、多数の契約を抱えることになりますので、法務知識を持った人材は必要です。
正社員2名を雇用しますが、特定の知識を持ったスペシャリストのため、年収基準を引き上げて対応しますので、通常の正社員人数にはカウントせず、専門職待遇とします。
また、サポート業務で派遣社員2名を雇用します。
技術
アトラクションの定期的なメンテナンスや、大規模な故障修理はメーカーに依頼しますが、日常的なトラブルには自前の技術者で対応する必要があります。また、修理の発注やメンテナンス計画等も担当します。
アトラクションの管理だけではなく、園内の電気設備や建物の維持管理等も担います。
正社員8名を雇用します。
情報システム
この規模の組織であれば、わざわざ情報システムを構えることは少ないと思います。ここでは、最近の潮流に合わせて、他の部署と連携をしてデジタル化による効率化を図ること、ソフトウェアのライセンス管理等を行うことを主たる業務の目的とします。あわせて、市民開発の啓発等、自発的なデジタル化と効率化を啓蒙することも業務の1つです。
正社員2名を雇用します。
パークオペレーション
パークオペレーションは、繁閑差に合わせて人数を流動的に変更できることが望ましいため、時間勤務制の社員を多く活用することになります。
営業時間は通常期10時-17時、繁忙期9時-18時としましょう。繁忙期は年間20日、年間稼働日数は350日とします。
実際には、勤務する人の交代があったり、休憩時間の取得があったりしますが、それらに給与が発生しないため、ここでは人数×時間のみをカウントすることにします。各人が複数のオペレーションを担当できる状態にして、順番に休憩を取得できる状態になっていることが必要です。
遊園地運営
アトラクションや物販・飲食以外の、駐車場整理、チケット販売、園内誘導等を行います。
駐車場整理は自動精算性を採用することで、常駐1名、繁忙期の午前中のみ誘導員3名を配置します。いずれも営業開始1.5時間前から勤務を開始し、繁忙期含め1名のみ閉園1.5時間後まで勤務します。通常期1名×10時間×330日で、3,300時間/年。繁忙期(3名×4.5時間+1名×7.5時間)×20日で、420時間/年。合計3,720時間/年です。
チケット販売はデジタル化を進めることで、常駐1名、11時まで2名、繁忙期の11時までのみ増員2名を配置します。いずれも営業開始0.5時間前から勤務を開始します。通常期(1名×7.5時間+2名×1.5時間)×330日、繁忙期(1名×9.5時間+4名×2.5時間)×20日で、合計3,855時間/年です。
入場ゲートは、こちらも自動化によって常駐1名。営業開始0.5時間前から営業終了まで勤務します。通常期1名×7.5時間×330日, 繁忙期1名×9.5時間×20日で、合計2,665時間/年です。
園内に救護所・迷子センター・案内所を兼ねた施設を設け、ここも常駐1名。同じく営業開始0.5時間前から営業終了まで勤務で、年間合計2,665時間です。
加えて、オペレーションの管理を行う正社員を1名配置します。
アトラクション運営
アトラクションの数は、前回の記事に従います。
大型ローラーコースターは通常期4名、繁忙期6名で運営にあたります。観覧車は常駐2名、ゴーカート3名。それ以外のアトラクションは、通常期1名、繁忙期2名で運営します。
合計で通常期22名、繁忙期37名となります。すべて時間勤務の従業員で対応します。いずれもオープンの1時間前から営業終了30分後まで勤務します。通常期22名×8.5時間×330日、繁忙期37名×10.5時間×20日で、合計69,480時間/年です。
オペレーション管理は3名の正社員で行います。
飲食
飲食店は、バフェテリアスタイル2店舗、スナック販売タイプ2店舗の、計4店舗を運営しましょう。
調理はフライヤー、炊飯器、寸胴鍋程度で、大規模であっても数名で回せるレベルです。バフェテリアの調理担当は、8時‐15時で通常期各2名、繁忙期各4名、15時以降は各1名。盛り付け担当に11時‐14時で通常期各3名、繁忙期各6名、14時以降は各1名。ホール誘導・清掃担当に通常期各1名、繁忙期11時‐14時に各3名を配置します。
スナックタイプは、通常期は2人でオペレーション。繁忙期の12時‐15時に2名増員します。以上、すべて時間勤務の従業員です。
同じように勤務時間を計算しますと、合計36,840時間/年です。
オペレーション管理とメニュー開発、店舗責任者を兼ねて、正社員3名を配置します。
物販
売店は3店舗を運営します。通常期は各店舗1名、繁忙期は各店舗2名配置します。品出し等があるため、勤務時間は開園2時間前~閉園30分後までとします。
同様に計算をして、勤務時間合計は10,785時間/年です。
このほか、商品開発、店舗管理等を行う正社員2名を配置します。
清掃
清掃担当は、開園3時間前~清掃を実施します。外注することも多いのではないかと思いますが、ここでは自前運用を想定しましょう。開園前清掃は5名で対応します。開園後は、トイレ清掃担当1名、路面・ゴミ箱清掃担当1名+余剰正社員で実施します。
時間勤務の従業員の勤務時間合計は、10,230時間/年です。
このほか、オペレーション管理、植栽選定等も含めて環境整備を担う正社員3名を配置します。
人件費まとめ
役員級は上記の通り、雇用コストが3,000万円。専門職正社員は平均年収1,000万円で、雇用コストが2,000万円。その他の正社員は平均年収650万円で、雇用コストが1,300万円。派遣社員は雇用コストが1,000万円とします。
以上を合計しますと、
- 役員 5名: 3,000万円×5名 = 1.5億円
- 専門職正社員 3名: 2000万円×3名 = 0.6億円
- 正社員 37名: 1,300万円×40名 = 5.2億円
- 派遣社員 13名: 1,000万円×13名 = 1.3億円
計8.6億円/年は、繁閑差によらず、常に雇用する人員です。
時間制の従業員は、採用コストも含めた雇用コストを2,000円/時とします。
上記より、年間勤務時間の合計が140,240時間ですから、かかる人件費は約2.8億円/年です。
したがって、人件費の合計は年間11.4億円となります。
メンテナンス費用
アトラクションはもちろん、建物や電気系統など、様々なところでメンテナンス費用が発生します。ただし、厳密な見積額が表に出てくることはありませんので、ここではザックリと試算をしてみることにします。
遊園地のアトラクションというのは、人を重力に逆らって運搬するものが多いです。機構として近いのは、エレベーター。エレベーターの場合、設置費用のおおよそ1/100程度を年間の点検費用として見積もることが多いようです。
ここでも、その例に倣って導入金額の1/100程度をメンテナンス費用として見積もり、1/50程度を修繕積立として考えておきましょう。実際には、修繕金は積み立てるのではなく、必要になった際に一括出費になりますが、その出費を毎年均等に割り付けておきます。
アトラクションの導入費用は約63億円でしたから、年間のメンテナンス費用は約6,300万円、修繕積立が1.3億円、合計約2億円となります。
ちなみに、アトラクションの保守は、保守契約のような形で故障時の対応と、定期メンテナンスを委託する形が多いかと思います。これによって、上記の「修繕金を毎年均等に割り付ける」ということが実現しまして、遊園地側は突然の出費によるキャッシュの枯渇といった事態を避けることができます。メーカー側も、修理委託先を変えられてしまう、失注の可能性を減らすことができますので、win-winに近い関係を築けます。
それ以外の施設については、動力部がほとんどありませんので、メンテナンス費用も相対的に安く抑えられます。エアコンや照明、吸排気設備、エレベーター、外壁塗装などは定期的に入れ替えが必要になりますので、これらを含めて年間0.5億円を見積もっておきましょう。
エネルギー費とその他雑費
アトラクションの運営にかかる電力は、例えば泉陽興業[1]や、岡本製作所[2]のHPに記載があります。
ローラーコースターで150 kW, 50 m 級観覧車で50 kW程度です。今回のアトラクション構成の場合、どんなに多く見積もっても800 kW程度。ただし、稼働時間はアトラクションによって大きく異なります。例えば、ローラーコースターはほぼ巻き上げ時のみですし、観覧車は常時電力消費します。こうした按分を考慮しても、全体で電力は400 kW程度。試運転を営業開始30分前から開始することにしますと、通常期7.5時間、繁忙期9.5時間の稼働で、年間消費電力量は約1 GWhとなります。他にエアコン等の消費電力を加味して、年間約1.2 GWh. 電気代を1 kWhあたり40円で計算をしますと、年間約5,000万円です。
他に、ゴーカートはガソリンを使用しますが、こちらは上記電気代と比べると微々たるもののため、ここでは省略します。
そのほかに、遊園地を運営する上では電灯、消火器等々の消耗品、ごみ処理費用などの雑費が発生します。これらを総合して、約5,000万円を計上します。
なお、食料品及び売店の仕入れ費については、売り上げから3割を原価として差し引く形で計算をすることにして、ここでは費用計上を省略します。
支出のまとめ
以上をまとめておきます。
まず、前回議論した税金は年ごとに変化しますが、20年程度の平均額を取ってくると、償却資産が0.18億円、土地が1億円、その他資産が1.3億円で合計約2.5億円。
同じく前回議論しました資金調達コストが、年間約30億円。
人件費が11.4億円。
メンテナンス費用が2.5億円。
その他エネルギー費等が1億円。
合計支出は、47.4億円となります。
次回は、収入を計算してみることによって、どれだけの資金的余力を生じ得るのかどうか、検証していきます。
参考文献
[1] 泉陽興業HP http://www.senyo.co.jp
[2] 岡本製作所HP http://www.okamotos.co.jp
引用方法
引用時は、下記を明記してください。
Yu Shioji, J. Amusement Park (2023) 230020.
利益相反
本稿に関わる利益相反はありません。
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