遊園地とアール・デコ – 遊園地のデザイン

Author: Yu Shioji (塩地 優)
Article type: Outreach(解説)

Article number: 240024

遊園地の三種の神器、ローラーコースター、観覧車、メリーゴーラウンド。現代と直接つながりのある歴史に限ると、これらのうち、メリーゴーラウンドはヨーロッパ生まれ。ローラーコースターと観覧車は米国生まれです。デザインにも大きな違いがあって、メリーゴーラウンドはメルヘンチックな雰囲気。対して、ローラーコースターと観覧車は機械むき出しの、モダンなデザインです。このように、乗り物によってデザインが大きく異なりますので、遊園地に統一的なデザインというのは生まれにくくなっています。一方で、それぞれのアトラクションには時代を反映した装飾が施されます。ここでは、遊園地の黄金期と重なるアール・デコの時代を中心に、遊園地のデザインの変遷を見ていきます。

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初期の遊園地と新古典主義

現代につながる遊園地は、19世紀末に姿を現します。場所はニューヨーク、コニーアイランド。

1894年に世界初のローラーコースターが設置され、1895年には「入場料」を徴収するタイプの遊園地が誕生します。こうした遊園地に先駆けて開催されたのが、1893年のシカゴ万博です。

シカゴ万博では、遊戯施設としては世界初の現代型観覧車が設置されたことで有名ですが、建築は非常に保守的で、19世紀前半に隆盛を誇った新古典主義が中心でした。”White City”と呼ばれるエリアは、非常に美しく荘厳で、セメントを使うなどの先進性はありつつも、デザインは古典的です。人気では、遊戯施設が多く集まるMidwayに長があった一方で、City Beautiful Movementの模範とされ、各地にこれを模倣した町が作られるようになります。

シカゴ万博のホワイトシティ。パブリックドメイン[1]

当然、遊園地にもそうした流れがやってきます。後に、各地にWhite Cityという名前の遊園地が多数できることになりますし、初期のコニーアイランドの遊園地も、建物の様式はWhite Cityの影響を強く受けていました。

ドリームランド(1904)の中心部。パブリックドメイン[2]

ヴィクトリアン様式とアール・ヌーヴォーの影響

ただし、遊園地ですから、当然そこに曲線的な要素が加わります。例えば、コニーアイランドの有名な遊園地、Luna Park(1903)中心部は、つるのような、曲線を多用した装飾、つまりアール・ヌーヴォーあるいはヴィクトリアン様式など、同年代の流行を反映しています。一方、屋根はロシア正教の教会や、イスラムのモスクなどを彷彿とさせるデザインで、オリエンタルな雰囲気を取り込んでいます。折衷的なデザインとすることで、異世界感を作り上げることに成功しています。

Luna Park中心部。パブリックドメイン[3]

同じくLuna ParkのDragon’s Gorgeというローラーコースター(1905年製で、全長1,200mが全て屋内にある)も、やはり下部は、特に柵や両サイドのアーチなどにヴィクトリアン様式の影響を色濃く見ることができる一方で、上方に行くにつれてつる状の、自然をモチーフとしたようなデザインが増えていき、アール・ヌーヴォー的になるとともに、異世界感を増していきます。アトラクションの建物であるため、歩行者の視線が向きやすい下方の異世界感は、両サイドのドラゴンの彫刻によって補っていると考えられます。

Luna ParkのDragon’s Gorge。パブリックドメインと推定される[3]

Luna Parkを模倣した遊園地も各地に作られるようになって、それらの遊園地では折衷デザインが主流となっていきます。

アール・デコとは何か

さて、本題に入る前に、アール・デコとは何か、というのを考えておきましょう。美術史や建築史の観点からは、「これはアール・デコ」「これはアール・デコではない」というのは、比較的明確に分離できるはずですが、芸術を意識していない世界では、その境界は非常に曖昧です。そもそも、アール・デコ自体が時代・地域によって大きく変化しているため、その言葉のさす範囲が複雑です。

アール・デコは、フランス、パリで生まれます。アール・ヌーヴォーの装飾性を否定し、産業革命以降の量産化・機械化やキュビズムの影響などを受けた、直線的なデザインとされることが多くあります。ただし、装飾自体を否定したものではなく、あくまで直線的な、あるいは真円を使った装飾を特徴としていて、機能性と量産性に特化したモダニズムとは本質的に異なる様式です。ですが、モダニズム的思想のもとに作られたものでも、アール・デコ的であるとされるものがあるなど、境界は曖昧です。

パリの1925年万博、通称アール・デコ展が一つの転換点であるとされます[4]が、実際には1910年代から流行し始め、大恐慌を経て1930年代に衰退していきます。パリのアール・デコは、かなり装飾的で、一見するとアール・ヌーヴォーの影響を色濃く残したようなデザインも、多く見受けられます。日本では、旧朝香宮邸(東京都庭園美術館)が、アール・デコ展の影響を強く受けた建築として有名ですが、例えばルネ・ラリックのガラスレリーフはアール・ヌーヴォーの名残を強く感じますし、シャンデリアを見てもモダンなデザインと自然をモチーフにしたデザインとが混在している様子がわかります。

旧朝香宮邸、ルネ・ラリックのガラスレリーフ
旧朝香宮邸シャンデリア。上部のランプシェードは有機的であるのに対して、下部の装飾は、きわめて装飾的ながらも幾何学的。こちらもルネ・ラリック作[5]。

アール・デコも、フランスから米国に渡ると、きわめて幾何学的なデザインへと移り変わります。ニューヨークでは、マンハッタンの摩天楼がその代表例。エンパイアステートビルやクライスラービルをはじめとして、当時建てられたビルは、その多くがアール・デコのデザインを反映しています。代表的な要素に、上に行くにつれて段階的にビルが細くなっていく、「セットバック」と呼ばれるものがあります。これは、空が狭くなりすぎないようにする法令に由来しています[6]が、アール・デコの代表的様式となっています。

エンパイアステートビル
画面中央右手に見える赤茶色の建物も、セットバックと装飾のあるアール・デコ建築です

このニューヨークのアール・デコは、直線的でありながら、どこか機械化や都市化、あるいは女性の社会進出など社会的な変化[7]への憂いや不安を感じさせる、陰のあるアール・デコです。

これが西海岸、特にロサンゼルスに至ると、奔放で明るいデザインになります。アール・デコが流行した1920年代は、「狂騒の時代」。ハリウッドは黄金期を迎え、その豪華さと虚飾とがないまぜになりながら、街並みにも表れるようになります[8]。この時代は、ニューヨークにも近い、ジグザグを基調としたデザイン。1930年代になると曲線が取り入れられるようになって[9]、よく米国の映画館として思い浮かべられるような、3面のファサードとネオンサインに縦長看板の建物や、近未来的な直線と曲線からなるスッキリとしたデザインが見られるようになります。後者は、例えば下記写真のCrossroads of the Worldなどが代表的。1930年代は大恐慌の後の時代。コストの都合で装飾は削減され、また、機械化を不安がっている余裕などなく、機械を活用して今よりも良い未来を描くことが必要とされます。ここに至って、アメリカン・アール・デコは未来的なデザインになっていくのです。

アール・デコ様式の映画館、Studio City Theater。[10]より。ジグザグに装飾された、直線を基調とするファサード、上方の看板など、随所にアール・デコの特徴がみられます。内装もアール・デコ様式です。
1936年、ロバート・デラー設計Crossroads of the World(ハリウッド)のレプリカ。Disney’s Hollywood Studiosに設置されているもの。画面中央付近、金属のリングに3本線が引かれているようなデザインが、アメリカン・アール・デコを代表するアイコンです。

エンターテイメントの一種である遊園地は、当然ながらこうしたハリウッドの影響も強く受けることになります。また、「楽しさ」を求めに行く場所ですから、憂いのない、楽しく美しいデザインが求められます。ですから、遊園地におけるアール・デコといえば、このハリウッド、ロサンゼルス(あるいはマイアミ)のアール・デコなのです。

遊園地とアール・デコ

それでは、改めて遊園地のアール・デコを見ていきましょう。

コロラド州デンバーのLakeside Amusement Parkにあるメリーゴーラウンド。円形の乗り物は、アール・デコとの相性が良いです。現在はチケットブースになっていますが、キャノピー部やその上の装飾がアール・デコらしさに満ちてしていますし、建物から周期的に飛び出すフィン状の構造も、装飾的です。
同じくLakeside Amusement ParkのCyclone[11]。アメリカン・アール・デコらしさ全開の建物です。
「看護師が常駐したローラーコースター」で有名な、Cycloneのあった、カナダ、オンタリオ州のCrystal Beach。レールが黄色いことから”The Yellow Coaster”の愛称でも知られた、Giant Coasterです[11]。ステーションの建物は後付けされたもの、とのことですが、見事なアール・デコの建物です。

1930年代の流線形デザイン流行によって、遊園地の回転系アトラクションとアール・デコとの親和性は極めて高いものとなっています。また、未来的でわくわくさせるデザインは、遊園地の先進性、乗り物の楽しさをアピールするのに役立っています。

ただし、こうしたアール・デコ調の建物は、遊園地では数は多くありませんし、現在も数を減らし続けています。遊園地の黄金期は1920年代です。この時代に無数の遊園地が作られ、大恐慌やモータリゼーションを経て消えていきました。1930年代が中心のアメリカン・アール・デコのデザインは、特に当時作られたものは決して多くありません。また、1950年代から1990年代頃まで、断続的にリバイバルがありましたが、それが過ぎ去って現在では数を減らしています。

遊園地が原点回帰をする際には、そのデザインはヴィクトリアンテイストのデザインになります。

歴史ある遊園地、Kennywoodが20世紀初頭の遊園地をイメージして1998年に新設したLost Kennywoodエリア。ヴィクトリアンテイストのデザインになっています。

残念ながら、遊園地のアール・デコは減る一方です。他方で、機械的で未来的なデザインは人をワクワクさせるもので、かつエンタメ産業とともに育ったデザインということもあって、遊園地とは切っても切り離せない関係にあります。北米の遊園地を訪れる際には、アール・デコの名残や要素を探してみてはいかがでしょうか。

オリジナルのアール・デコとは少し違いますが、遊園地・テーマパークでアメリカン・アール・デコを楽しもうと思うと、ハリウッドのアール・デコを再現・イメージしたディズニー・ハリウッド・スタジオ(ウォルト・ディズニー・ワールド)に行きつきます。前述のクロスロード・オブ・ザ・ワールドもハリウッド・スタジオ内にありますが、さらにゲートやエントランス付近の街並みなど、様々な建築物が見られます。ディズニーらしい強化遠近法が使われていたり、本物と比べると小さかったり、といった違いはありますが、アール・デコのワクワク感をうまく再現した施設です。

ハリウッド・スタジオのエントランス。未来的で、ワクワクさせるデザインです。
アール・デコ調の建物群。エメラルドカラーの建物は、上部にそびえるタワーがジグザグ。その手前側は流線形を取り入れたデザインで、おそらく時代背景の異なる建物が並んでいることを想定していると思われます。
観光名所、グローマンズ・チャイニーズ・シアターもアール・デコの亜種に数えられることがあります。写真はやはり、ハリウッド・スタジオにあるものです(アトラクションリニューアル前)。

日本の遊園地・テーマパークとアール・デコ

日本には、アール・デコの時代にすでに存在していて、現代まで営業し続けている遊園地は存在しませんから、オリジナルのアール・デコというのは、遊園地やテーマパークにはありません。しかしながら、やはりディズニーが独自の解釈でアール・デコを作り上げています。

アール・デコは、ハリウッドの黄金期に重なるということはもちろん、狂騒の時代や大恐慌をイメージさせます。アナハイムにディズニーランドが作られた1950年台からすると、1920、1930年台というのは、ちょうど現役世代がノスタルジーを感じる時代。音楽的には、ラグタイムやディキシーランド・ジャズの時代から、スイング・ジャズ、ビッグバンド・ジャズへと移行する時。ちょうど、ニューオーリンズ・スクエア(東京ディズニーランドでは、アドベンチャーランドの下側)からメインストリートU.S.A(東京ディズニーランドでは、ワールドバザール)にかけての時代です。その中でも、東京ディズニーランドのワールドバザール、最もトゥモローランド寄りに、センターストリート・コーヒーハウスがあります。もともとは、その向かいにあるトイ・ステーションも、ビーバップホップというアール・デコ調の外観のショップでした。この辺りは、19世紀末から未来へとつながる、境界領域だったのです。そのセンターストリート・コーヒーハウスは、内装こそリニューアルされていますが、いまだにアール・デコを楽しむことができます。

センターストリート・コーヒーハウスの内装。最近は、アール・デコ関係を何でもかんでもエメラルドに塗ってしまっていますが、メタルとのバランスも良くスタイリッシュ。椅子などの什器もメタリックでアール・デコ調です。もともとは、モルタル仕上げの丸い柱を、上が太くなるジグザグにして、その段差に埋め込んだ間接照明で照らす、温かみがありつつ豪華なアール・デコスタイルでした。

2000年には、アンバサダーホテルがオープンします。まさにハリウッド・アール・デコをテーマとしたホテルです。ここがハリウッドテーマになった理由は定かではありませんが、第2パーク構想(現在のディズニーシー)が、当初MGMスタジオ(現在のハリウッド・スタジオ)に近い、スタジオをテーマとするものになる予定だったことと、無関係ではなさそうです。そのハリウッドテーマのうち、生き残っているものはアンバサダーホテルだけなのですが、ここもやはり見事なアール・デコ建築となっています。

ディズニー・アンバサダーホテルのプールに面する側。まるで複数の建物の集合体のように、様々な顔を見せます。
内部の廊下は、落ち着いた木目を基調とするアール・デコ。壁紙にも3本線が入っていて、アール・デコを感じさせます。
一般的な部屋(スーペリアルームなど)に置かれているスタンド。球体と、上に行くにつれて徐々に太くなる支柱が美しい。
ミニー・マウスルームのスタンド。モードは、ちょうどアール・デコ期に流行したファッションです。

当然ながら、ハリウッドが1つのテーマになっている、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでもアール・デコ調の装飾を見ることができます。ただし、シネマ4-Dの装飾こそハリウッドの映画館をイメージしていますが、あくまで「スタジオ」ですので、それ以外の部分では簡易的な、円形の柱と横3本線の金属を組み合わせた装飾が多く見られます。

純粋なアール・デコとは少し異なりますし、遊園地とも少し異なる場所ですが、アール・デコの先駆者として知られるフランク・ロイド・ライトの傑作、2代目帝国ホテルのエントランス棟は、博物館明治村に移築されていて、今でも中に入ることができます。客室棟や演芸場などは移築されていませんので、実際に見ることができる範囲は狭いのですが、今でも当時の威光と、幾何学的なパターンを中心とした美しい装飾を見ることができます。また、中ではライトの椅子に座り、コーヒーを飲むことができるカフェも営業されています。

フランク・ロイド・ライト設計の帝国ホテルエントランス部。後にアール・デコにも影響を与える、直線を主体とした装飾的な建物です。
マヤ文明の影響などを受けたといわれるパターン装飾は、やはり純粋なアール・デコとは方向性が異なりますが、美しく豪華な建物であることに間違いはありません。
六角形の背もたれが特徴的な椅子は、ライトの設計で、実際に帝国ホテルでも使われていたものです。これに実際に座ってお茶を楽しむことができます。

日本ではなかなか見かけないアール・デコですが、2大テーマパークでは比較的大きな扱いで見ることができますし、世界に誇る名建築を保存した施設もあります。これ以外にも、アメリカン・アール・デコっぽい装飾は様々なところで見ることができますので、ぜひ探してみてください。

参考文献

[1] Wikipedia “City Beautiful Movement,” https://en.wikipedia.org/wiki/City_Beautiful_movement (2024年8月31日閲覧)

[2] Wikipedia “Dreamland (Coney Island, 1904),” https://en.wikipedia.org/wiki/Dreamland_(Coney_Island,_1904) (2024年8月31日閲覧)

[3] Wikipedia “Luna Park (Coney Island, 1903),” https://en.wikipedia.org/wiki/Luna_Park_(Coney_Island,_1903) (2024年8月31日閲覧)

[4] 「アール・デコの世界1 パリ アール・デコ誕生」佐野敬彦、学習研究社(1990)

[5] 「アール・デコ様式のセーブル磁器展」東京都庭園美術館編、財団法人東京都文化振興会(1993)

[6] 「アール・デコの世界2 ニューヨーク 摩天楼のアール・デコ」海野弘、中子真治、学習研究社(1990)

[7] 「アール・デコの時代」海野弘、中央公論新社(2005)

[8] 「アール・デコの世界3 ハリウッド/マイアミ アメリカン・デコの楽園」海野弘、中子真治、学習研究社(1990)

[9] 「アメリカン・デコ展カタログ」中子真治、東京新聞(1990)

[10] “Studio City Theatre, Studio City, California, 1946,” https://digitalcollections.oscars.org/digital/collection/p15759coll5/id/125 (2024年8月31日閲覧)

[11] “The American Amusement Park,” Dale Samuelson, MBI Publishing Company (2001).

引用方法

引用時は、下記を明記してください。

Yu Shioji, J. Amusement Park (2024) 240024.

利益相反

本稿に関わる利益相反はありません。

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