Author: Yu Shioji (塩地 優)
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Article type: Article (研究)
Article number: 250015
2025年4月4日付の沖縄タイムス紙に、筆者の名前入りで、ジャングリア開業に伴う渋滞の試算結果が掲載されました[1]。ここでは、この試算の算出仮定を詳述します。
渋滞個所の概要とジャングリアの対応
渋滞が発生するかどうかの試算を行ったのは、沖縄県道84号線と、ジャングリア前を通る道路とが交わるT字路です。記事執筆時点では、この交差点に名前はありませんが、ここでは、仮に「ジャングリア入口」と呼ぶことにします。
この交差点では、那覇側から訪れる客のほとんどが右折をすることになります。これに対して、県は、ジャングリア開業の情報を得てから、開業までにできる最善の策として、右折レーンと信号の設置を選択しました。右折レーンは43mです[2]。当初、右折レーンが開業に間に合わない、という話もありましたが、ジャングリア側は間に合わせる、と発言しています。ここでは、これをそのまま受け入れて、信号機と右折レーンが設置されるという前提で試算を進めます。なお、右折レーンの設置が開業に間に合わない見込みとなったことについて、県側は「工期が決まってから開業日が発表された」からだと説明しています[3]。ジャングリア側の情報共有不足が背景にあったと考えられます。
パークの敷地内には、ゲスト用駐車場と従業員用駐車場あわせて約1,500台が設置されます。これをオーバーする分は、名護市などに分散して場外駐車場が設置されます。場外駐車場からは、マイクロバスを中心とした輸送が行われます。バスは、県道72号から84号に入りますので、ジャングリア入口では左折をすることになります。72号から84号に右折するルートも、右折帯が短く、比較的混雑しやすいのですが、ここではジャングリア入口を右折する部分に集中して議論を進めます。
また、渋滞対策として、できるだけ84号を使う車が少なくなるよう、72号経由の経路を案内する標識を設置する、としています。ただし、設置されるのは、名護市街を通って国道58号に入ろうとするルートのところで[4]、名護東道路を使った場合には、この標識を目にすることはありません。カーナビやGoogle Mapなどを使用すると、名護東道路を使ったルートを案内される可能性が高いと思われますので、対策としての実効性は高くないと思われます。
前提条件
試算の前提条件をあげておきます。
- 車両全長はすべて4 m (Bセグメント コンパクトカーサイズ)
- 停止時の車間距離は4 m (低速走行時も車間距離は変わらないとすることで、渋滞を過小評価する)
- 信号のサイクル長は80~230秒 (県警からの情報)
- 黄色信号、全赤信号は各2秒 (交差点が小さいこともあって、短めに見積もることで、渋滞を過小評価する)
- 側道の青信号時間は、全青信号時間の20% (あまりに短くしすぎると、バスが通過できなくなるため)
- 右折は、右折信号または時差式
- 右折信号または、時差式の右折可能時間は、直進青時間と同じ (直進青時間を短くすると、72号側からの交通が滞るため。一般的な信号よりも極端に右折時間を長く取ることで、渋滞を過小評価する)
- 時差式の場合、信号表示は赤信号+直進、右折矢印
- 右折、直進車両ともに、3秒ごとに交差点を通過する (適切な車間距離とされる2秒[5]+車両通過時間)
- 車両通過にムラは無く、一定の時間間隔で通過する (出遅れ等を無視し、渋滞を過小評価する)
- 青信号になってから、発進までに2秒のタイムラグを生じる
- ジャングリア入口を本部方面に直進する車両は、1時間に300台
- 右折車両と直進車両は、完全に均等にやってくる (ランダム性による渋滞を無視し、渋滞を過小評価する)
- 例えば、右折車600台/時、直進車300台/時の場合は、必ず右折2台、直進1台の周期でやってくることとします
- 対向の直進または左折車両も1時間に300台程度あり、青信号点灯中は右折できない
全体としては、渋滞を少なく見積もるように設定しています。
信号通過可能台数の試算
まず、右折車両を300台に固定して、右折可能な台数を見積もってみましょう。
T字路ですので、右折信号点灯時に、直進を止める理由はありません。ですから、ここでは右折信号点灯時は直進も可能であるという前提で議論を進めます。
まず、車1台には車間距離も含めて、8 mの長さのスペースが必要です。右折レーンの長さが43 mですから、ここに入る車の台数は5台が標準、やや詰めて6台程度と考えられます。その横にある直進レーンも同様に6台がいるとします。最初の6台ずつは、いずれも3秒ごとに交差点を通過していきます。右折点灯から2秒のラグを経て、18秒で全車両が通過、つまり、右折信号点灯から20秒で、右折レーンにいた車はすべて交差点を通過します。この後は、ペースが遅くなります。直進車と右折車が交互にやってきますので、およそ6秒間隔で信号を通過していくことになります。
信号のサイクル長をt(秒)とします。信号サイクルは、84号直進青→黄色→全赤→右折青→黄色→全赤→側道青→黄色→全赤となります。1サイクルあたり、黄色と全赤は3回。各2秒の設定ですから合計12秒を黄色と全赤に割くことになります。残りの(t-12) 秒のうち、20%、つまり(t-12)/5 秒が側道の青信号です。残りの4(t-12)/5 秒のうち、半分が右折可能時間ですから、右折可能なのは2(t-12)/5 秒となります。これは、最短のサイクル長80秒の場合でも、右折可能時間が27秒以上となりますので、右折レーンの車両はすべて処理できることになります。
ですから、1サイクルあたりの通過台数は、{2(t-12)/5 – 20}/6 + 6 台となります。厳密には、少数を取ることは無いので、小数点以下を切り捨てて階段状のグラフにする処理が必要になりますが、その厳密性にあまり意味が無いので、ここでは無視します。1時間当たりのサイクル回数は3600/t 回です。つまり、1時間当たりの右折可能台数は、3600/t * [{2(t-12)/5 – 20}/6 + 6] 台となります。これをグラフにすると、図のように単調減少となります。

単調減少になるのは、右折レーンが短いため、右折可能時間を長く取っても、1車線部分から直進レーンと右折レーンに振り分ける以上、右折車両間の間隔が長くなってしまうためです。信号を青にした時の出遅れなどが無い、という仮定に基づけば、サイクル長は右折レーンが通過できるのに十分な時間まで短くする方が有利になります。ただし、一般にサイクル長が短くなりすぎると、出遅れ等のロス分が大きくなるため、最も短いサイクルでも80秒程度になるようです。
では、直進車と右折車の比率を変えるとどうなるでしょう。最も有利なサイクル長80秒の場合で試算します。比率が変わると、{2(t-12)/5 – 20}/6の分母の6が変わります。直進車と右折車の割合が1:1なら6秒間隔ですが、1:2になると平均4.5秒間隔というように、右折車の割合が高くなるにつれて、車両間隔が詰まっていくことになります。これを定式化しましょう。右折車の平均通過時間は、1時間当たりの右折車台数をxと置くと、3*(x+300)/xで求まります。これを、元の式に入れ、tに80を代入しますと、324x/(3x+900) + 270となります。これをグラフにすると、下図のようになります。

単調増加ではありますが、それほど感度は高くないことがわかります。また、いずれにしても、実態としては3秒おきに右折車が流れるほど効率的には進みませんので、少し効率を落として、300台/時というのを1つの基準とすることにします。
渋滞の長さ
信号を通過できる右折車両は、300台/時だということがわかりました。これを上回れば、上回った分が全て道路上に滞留します。渋滞の発生です。
例えば、1時間に500台がやってきたとしましょう。すると、右折車両だけで200台の車列が信号手前にできることになります。直進車は、右折車500台に対して直進車300台の割合ですから、60%です。つまり、200台の60%で120台の直進車が、右折車とともに車列に加わります。車列は、320台の長さです。
前提条件で述べたように、車1台分のスペースは8mとしていますので、渋滞の長さは8 m×320台 = 2.56 kmとなります。なお、この車間距離は停止時をベースとしていますので、実際にはもう少し長くなると予想されます。
渋滞の最後尾にいる車両は、前に200台の右折車両がいます。右折車両は1時間に300台分進みますので、通過には1時間の200/300、約40分を要します。
1時間に700台の右折車両が来ると、渋滞は国道58号との交差点に至ります。国道58号に至ると、市街地へとれんさてきに渋滞が伸びると予想されます。
渋滞の実態予想と対策
右折車両が交差点を通過するペースは、慣れている運転手が車間をやや詰めて、2秒に1台程度です。観光地で、レンタカーが多いという事情を鑑みれば、3秒に1台という数値は妥当ではないかと考えられます。それ以外の要素としては、一般に渋滞は速度のゆらぎによって発生します。山間を走る道路で、勾配変化が大きいということを考えると、特に観光客の運転では渋滞が発生しやすいと考えられます。加えて、車両ミックスのゆらぎによっても、渋滞は悪化する方向に進みます。車列が止まった際に、右折レーンが埋まらない事態が発生しかねないためです。
これらを鑑みれば、渋滞は右折車両が1時間に300台よりも少ない時点で発生し始め、台数が増えるにつれて伸びていく方向に行くと考えられます。
数値上の対策としては、例えば交差点を通過する際の車間を詰める、という方法が考えられます。3秒に1台という通貨間隔を、2秒に1台まで詰めれば、通過可能台数は1.5倍になります。啓発方法としては、「常に前を見るように」という手段が考えられますが、それだけでは2秒までは詰まりません。「車間を詰めるように」という啓発は、交通事故を誘発するため、通常はあり得ません。ですから、あまり現実的な手段とは言えません。
他の手段としては、立体交差化などの大幅な改良をするか、パーク内の駐車場台数を、金額差をつけるだけではなく、そもそも使わないという選択を取る、来場時間を分散させるなどの方法が考えられます。立体交差化については、交差点周辺に民家が多く、用地買収からスタートする必要があるため、早くても7~8年はかかる事業になると思われます。パーク内の駐車場を使わない、という選択肢を取ると、場外駐車場の賃料、駐車場とパークを結ぶバスの運行料が発生します。バス待ちと乗車時間あわせて1時間以上がかかるというのも、貴重な観光時間の使い方としてはもったいないので、ジャングリアに行くかどうか検討している方の選択肢を狭めることにつながります。ですから、営利企業としては通常しない選択であると考えられます。来場時間の分散は、ジャングリアは現時点で検討していないようです[1]。行政などは取り得る対策を打っていますが、ジャングリア側は事実上、ジャングリア入口交差点に由来する渋滞に対しては、対策をしていないと言って良い状況です。来場経路の分散を図ったところで、場内に1,000台の駐車場があれば、最大1,000台が来場することに変わりはありません。従業員も含めれば、1,500台がやってきます。迂回路に全台数を流すわけにはいきませんし、もしそうすれば、中山交差点と、ジャングリア入口の左折がいずれもパンクしてしまいます。駐車場のゲートレス化などは、交差点に由来する渋滞に対する対策ではなく、パーク前道路の混雑に由来する渋滞への対策です。
以上の状況を考えれば、渋滞が全く発生しないことは無いでしょう。ただし、来場時間の適切な分散策を取れば、渋滞を緩和することはできる、という状況だと考えられます。
参考文献
[1] 「【挑む ジャングリア開業】渋滞回避、実現遠く 入口交差点の車両数試算 琉球大学准教授「ルートや入園時間の分散が鍵」」2025年4月4日閲覧
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1557800
[2] 沖縄タイムス「「一企業ができることを超える覚悟で取り組む」 刀の森岡代表、ジャングリア渋滞対策に言及 那覇市で講演」2025年4月3日閲覧
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1539148
[3] 沖縄タイムス「「ジャングリア沖縄」渋滞対策は? 不安拭えない地元住民 名護市中山区、運営企業や県などに説明要望書」2025年4月3日閲覧
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1542959
[4] 北部地域交通円滑化WG「『テーマパーク開園に向けた交通対策』」2025年4月3日閲覧
https://www.ogb.go.jp/-/media/Files/OGB/Kaiken/kyoku/kisya/R061121/PDF_20241121_kisya_1.pdf
[5] JAF 「走行中の適切な車間距離は?」2025年4月3日閲覧
https://jaf.or.jp/common/kuruma-qa/category-drive/subcategory-technique/faq138
引用方法
引用時は、下記を明記してください。
Yu Shioji, J. Amusement Park (2025) 250015.
利益相反
本稿に関わる利益相反はありません。本稿は、沖縄タイムス紙の依頼を受けて実施した、渋滞の試算過程を示すものですが、筆者と沖縄タイムス紙との間には、謝礼金の授受等の金銭的関係はありません。
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