遊園地の収入とコスト1 – 稼働率と投資対効果

Author: Yu Shioji (塩地 優) 
Article type: Commentary (解説) 
Article number: 230015

遊園地、特に地方の遊園地は、「経営が苦しい」という話をよく耳にします。

これから何回かに分けて、なぜ遊園地の経営は苦しいのか、解説していきます。今回はその序論として、遊具の稼働率と投資対効果という観点で、大型テーマパークと地方遊園地の違いを見ていきたいと思います。

 

前提条件

Cedar Point Millennium Forceのライド

大型パークのライドイメージ。写真は32人乗り。Cedar PointのMillennium Force.

まずは、大型テーマパーク、例えば舞浜や桜島にあるようなテーマパークと、九州や四国、北海道などの地方で一番大きな遊園地との比較をしてみましょう。

この規模であれば、大型ローラーコースターの新設を考えるのが良いと思います。メーカーと金額をおおよそ揃えるために、大型テーマパークはUniversal Orlando ResortのIslands of Adventureが2021年に導入したVeloci Coasterを、地方遊園地は富士急ハイランドが2023年に導入したZOKKONを参考にします。

実は、ZOKKONとライド台車がほぼ同じモデルに、Islands of AdventureのHagrid’s Magical Creatures Motorbike Adventureがあるのですが、これはプラットフォームで車両が常時動き続ける、ちょっと特殊なタイプなので、Veloci Coasterを参照することにしました。

 

投資額の違い

さて、Veloci CoasterもZOKKONも、Intamin社のLSM Launchという急加速を用いたローラーコースターです。Veloci Coasterはテーマ性に合わせた装飾が多く施されていますので、実際の投資額はかなり高いと思われますが、ローラーコースター単体の価格はそれほど大きな差が無いはずです。最近、東南アジアや中東などを含めた海外の遊園地では、LSM Launchにダークライド要素(映像や動く人形を使った演出)を組み合わせたコースターが多く作られていますので、そのイメージでIntamin社のLSM Launchを参考にします。ZOKKONもダークライド要素のあるコースターですよね。

さて、ZOKKONの投資額が約45億円とされています。最近の建設費高騰や円安の影響もあって、これからこの規模のローラーコースターを新設しようとすると、およそ50億円というのが妥当な線でしょう。車両はZOKKONが3編成、Veloci Coasterは5編成有しています。実際に地方遊園地が導入するとしたら、2編成用意して超繁忙期以外は1編成で運用するのが現実的な線だと思います。3編成の差を金額に入れ込むために、1編成あたり少し高めに見積もって3.3億円として、地方遊園地は50億円、大型テーマパークは60億円の投資をしたとします。

 

体験できる人数の違い

Coney Island Luna ParkのSteeplechase

中規模遊園地向けライドのイメージ。写真は12人乗り。Coney Island Luna ParkのSteeplechase.

それでは、それぞれのローラーコースターは1日に何人が体験できるのでしょうか。

大型テーマパークは5編成有していますが、そのうち1編成は交代でメンテナンスに送られて、残った4編成で運用します。同時に走行できるのは2編成だけですので、残り2編成はプラットフォーム付近で停車しています。1編成は乗降、1編成は乗車完了後に出発待機または降車待ちというイメージです。1区間の走行におよそ40秒かかりますので、理論上の最大効率は、40秒ごとに1編成が発車、ということになります。1編成あたり24名が乗車できますので、1時間当たり2,160名です。ただし、実際には乗降に手間取ったり、ハーネスチェックに手間取ったりしますので、現実的には1分間に1編成の発車、1時間当たり1,440名程度だと思われます。さらに定員をフルに使えるわけではなくて、シングルライダーの不足だったり、オペレーションミスなどで10%程度は空席が発生するとして、1時間当たり1,300名程度。朝9時から夜10時まで営業すると、1,300人×13時間で16,900人/日となります。年中無休なら、6,168,500人/年が体験することになります。

一方、地方遊園地では、よほどの繁忙期を除けば1編成での運行になるでしょう。1人または2人でオペレーションをすることも多いと思いますので、およそ5分に1回の運行。1編成あたりの乗車人数を増やすことにあまり意味はありませんので、1編成14名。平日はフルに埋まることはなくて、常時8名程度。土日はオペレーション都合による空席含めて12名程度。うち、ゴールデンウィーク、お盆、特殊イベント期間に繁忙期が発生して、そこだけは2編成で運行。オペレーターも増員して、運行間隔が3分に縮まるとします。繁忙期は土日6日、平日6日の年間12日に設定しましょう。営業時間を9時-17時としますと、通常平日768名/日、通常土日1,152名/日、繁忙期1,920名/日。年間通常平日が255日、通常土日が98日、繁忙期が12日。合わせて、232,704人/年が乗車します。

いかがでしょう。年間600万人が体験するアトラクションと、年間20万人が体験するアトラクション。その価格は、60億円と50億円。稼働率が低いと、厳しい戦いを強いられることがお分かりいただけましたでしょうか。

 

投資対効果

最近の遊園地はほとんどがフリーパス制を導入していますから、アトラクション設置がもたらした売り上げは、単純に乗車料金×人数では計算ができません。最も正確な見積もりは、入場者数のうち、そのアトラクションが無ければ来園しなかった人の数に、それらの人の平均客単価をかけたものと、そのアトラクションが無ければ来園頻度が低かった人の数に、向上した来園頻度とそれらの人の客単価をかけたものとの和でしょう。ただし、このような見積もりは極めて困難です。「そのアトラクションが無ければ来園しなかった人の数」というのを調べるのが難しいのです。

アンケート調査などでも実態を把握することは困難なので、事実上は前年同時期の入場者数との比較を行っている、というのが実態でしょう。ここでは、あくまで仮想の話ですので、地方遊園地では新規ローラーコースター乗車者の半分、10万人が「新しいのできたらしいから行こっか」という感じで来園したものとします。ローラーコースター乗車者はほぼフリーパスを購入するので、客単価はフリーパス料金+昼食料金+若干のお土産代で6,000円(10万人のうち、半数近くが子供料金であることを想定しています)。お土産と昼食代は、人件費を含む原価を引いておかないといけませんので、実収入を5,300円とします。すると、5,300円×10万人で5億3千万円の利益押上げ効果となります。

ただし、50億円の支出をしていますので、これを回収するには、投資にかかる利息のようなもの(株式会社であれば株主還元や、社債であれば利回り等を含む)や、固定資産税、メンテナンス費用なども加味して、15年ほどかかることになります。しかも、新型ローラーコースターの効果は15年間一定ではありません。その間に新型機効果はどんどん薄れていきます。ですから、事実上回収は不可能、という結論に至ります。だからこそ、地方遊園地に新しい大型コースターは建設されないのです。

では、大型テーマパークではどうでしょうか。こちらはローラーコースターの新設が無くても、ほぼフル稼働していますから、見積もりが極めて難しくなります。ローラーコースターが既存アトラクションの置き換えではなく、新設であれば、パークのキャパシティがその分だけ増えますので比較的簡単なのですが、大抵は既存アトラクションの置き換えです。その場合、将来にわたる魅力の維持、といった形で投資が説明されます。ブランドの価値を金額換算して、現状維持により棄損されるブランド価値の分が、アトラクション新設の効果になるわけです。これを計算するのは厄介なのですが、ごく単純化して考えると、例えば1日3万人が入園するパークで、1万人が年間複数回来園するコア層だとします。ここはアトラクションの置き換えが極めてゆっくりでも、それほど離れていきません。問題は、残りの2万人です。年間730万人で、これがおよそ10年で7,300万人、国内市場をほぼ一周します。アトラクションの置き換えが無ければ、これがごっそり離れてしまうと考えますと、「10年後の年間730万人を買っている」と考えることができるわけです。

そうすると、60億円の投資に対して、最初の10年間は利子等々だけが積み上がります。が、10年後に1万円×730万人 = 7,300億円/年が返ってくるわけです。実際には、これをその間に更新した複数のアトラクションで案分していくわけですが、それでも年間500億円といったオーダーでリターンがあるわけです。ですから、投資に対する十分な見返りが見込めるのです。ただ、この見積もりは大分古い時代の考え方で、最近は10年で離れていく層が2万人/日もいません。もう少し効果は小さいと思われますし、実際の投資額は60億円なんてものではなくて、数百億円といったオーダーになりますので、運営経費とかも引いていきますと、意外と余力は大きくはありません。

 

遊園地は、「楽しさ」の大量生産をしている

今回は序論ということで、ローラーコースターを1つの例にして、地方遊園地がなぜ苦しいのか、大型テーマパークとの比較から議論をしてみました。一つの施設を、いかに効率的に使うか、という観点が重要だということがお分かりいただけたのではないかと思います。効率的に使えるだけの集客ができないと、十分な投資対効果が得られないのです。

遊園地の大型遊具というのは、もともと多くの人に安くスリルを体験してもらうために設計されています。ある種、スリルや楽しさの大量生産なのです。ですから、基本的な考え方は工場などと一緒で、一度設備を導入したら、できるだけ稼働率を高めなければなりません。そして稼働率を高めた結果として得られる商品を売り切るだけの営業力・販売力が必要になるのです。それができないのであれば、投資を決めることができません。

娯楽の多様化は、人口の少ない地方での、遊園地における大量生産を否定してしまっています。一方で、レジャー産業における少量多品種展開は、往々にして価格高騰と質の低下を招いてしまいます。遊園地においては、質の高い少量多品種への移行が求められているといっても過言ではないでしょう。

次回以降、もう少し詳しく遊園地の経営状態を解析したうえで、今求められている少量多品種の考え方も詳しく解説していきたいと考えています。

 

引用方法

引用時は、下記を明記してください。

Yu Shioji, J. Amusement Park (2023) 230015.

 

利益相反

本稿に関わる利益相反はありません。

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