大型ファミリーコースターの時代がやってきた

Author: Yu Shioji (塩地 優)
Article type: Commentary(解説)
Article number: 240009

ローラーコースターは時代とともに、流行のスタイルを変えてきました。古くは8の字型コースレイアウトや、細長いコースレイアウト。ループコースターや、ぶら下がり型、シンプルなキャメルバックなど、様々な流行がありました。最近は、その流行がファミリーコースターへと移りつつあります。ここでは、最近流行している大型ファミリーコースターとは何か、なぜ流行しているのかを解説していきます。

 

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大型ファミリーコースターとは何か

ファミリーコースターというのは、一般に、家族のだれが乗っても楽しめるようなコースターのことを指します。小さなお子様向けのコースターは、ここでは子供向けコースターに分類することにしまして、ファミリーコースターは子供でも、大人でも、誰が乗っても楽しいコースター、ということです。子供向けコースターとファミリーコースターに厳密な区分があるわけではありませんが、最高速度が40 km/h以上というのが、ファミリーコースターに分類される目安だと考えています。

また、厳密な定義があるわけではありませんが、一般に身長制限が約100 ㎝以下のものがファミリーコースターに分類されます。約と言っているのは、インチ表記の場合に前後することがあるためで、102 cm程度までは許容されるとお考え下さい。

身長制限は、一般に座席構造やハーネス構造の影響を受けます。あらゆる体格でも座席から抜け落ちることが無いように、通常はラップバー(太ももの付け根付近を抑えるバー)で、

  • 座面が深い(両サイドにひじ掛けくらいの高さまで壁がある)
  • ラップバーが座面のふちより下まで降りる
  • ラップバーを支える構造が股の間を通るか、股の間を通るベルトで固定する

といった構造になります。

典型的なファミリーコースターの座席。座面の両サイドがせり上がりと、バーで太ももを押さえることで上および横方向の落下を防止。股のベルトで前方ずり落ちを防止しています。

このため、椅子から身体が浮き上がるような方向に強い荷重がかからない、横Gが大きくないなど、コースレイアウト上の制約を強く受けます。一般に、大きなドロップはほとんどなくて、小さなキャメルバックやカーブを主体として、地を這うようなコースレイアウトになることが多いです。もちろん、よりマイルドなコースレイアウトであれば、2座席分連続した安全バーのような、簡易な拘束方法を用いることもあります。

「大型」と言っているのは、一般的なローラーコースターからすると中型程度のサイズ感のものも含みますが、おおよそ走行全長が350 m付近からを指します。ファミリーコースターとしては大型、というニュアンスです。

また、ダークライドのようなショーセクションがあったり、何かしらのテーマが付与されていたり、途中で逆走するようなギミックがあったり、あるいは急すぎない急加速エレメントがあったりと、様々な工夫が凝らされていることも多くあります。

こうした事情から派生して、必ずしも身長制限が102 ㎝以下ではなくても、そうしたコースレイアウトを有するコースターを、広義のファミリーコースターと呼ぶ場合があります。富士急ハイランドに導入されたZOKKONも、身長制限は120 ㎝以上ですが、内容からファミリーコースターに分類される場合があります。

 

大型ファミリーコースターの歴史

そうしたファミリーコースターの原型は、19世紀末から20世紀初頭にまで遡ります。当時、シーニックレイルウェイ(Scenic Railway)という、岩山の造形などの周囲や中を駆け抜けるローラーコースターが流行していました。当時は現代ほどのスリルが無かったこともあって、子供でも乗車できるレイアウトでした。

現在は、デンマークのTivoli Gardensに、Rutschebanenという名前でその一種が残されています。1914年製ながら、現役です。

その後、こうした系譜を大きく進化させたのが、言わずと知れたディズニーです。1959年のマッターホルン・ボブスレー(アナハイムのディズニーランドに設置)は、現在でも身長制限が107 ㎝。大きなアップダウンは無く、カーブ主体で岩山の中を走り抜けるコースレイアウトが特徴的です。その後も、1977年のスペースマウンテン、1979年のビッグサンダーマウンテンのいずれも、アナハイム、オーランド、東京の古い3パークは、ほとんどが102 cm以上で乗車可能です。これらも、やはりアップダウンよりカーブを主体としたコースレイアウトが特徴的です。

当然、これらを真似したようなコースターも多く作られてきましたが、ブームとまでは言えない状況が続きました。

古典的なファミリーコースターの典型例(ひらかたパークのラウディ)。マイントレイン型という、トロッコのようなコースターで、ビッグサンダーマウンテン以降に様々なタイプが製造されました。

何が転機になったか、というのは難しいところなのですが、大型ファミリーコースターブームが起きるきっかけの1つとなったのは、2011年、Drayton Manorに設置された、Vekoma社製ファミリーブーメランシリーズの1号機、Acceleratorだと思われます。ブーメランというのは、日本ではあまりなじみがありませんが、Vekomaのベストセラー機。いわゆるシャトル型のループコースターの変則レイアウトで、コンパクトさがウリでした。それを、ドロップ傾斜をなだらかに、ループも無しにしてカーブ中心のレイアウトに変更したものが、ファミリーブーメラン。とはいえ、高さ20 m、最高速度60 km/hと、ファミリー向けとしてはなかなかのスペックです。

ただ、ファミリーブーメランがすぐに波に乗ったかと言いますと、そんなことはありません。加速度的に増え始めたのは2020年代に入ってからで、それまでは年に数機の新設、という状態が続きました。それが2020年代に入って急速に増えてきまして、2024年には、既に8機の導入が決まっています。

ファミリーコースターの導入に積極的なDollywoodでは、2014年に急加速、ダークライド的演出、後ろ向き急加速のあるコースターを導入(FireChaser Express)。2019年にはぶら下がり型のファミリーコースター(Dragonflier)、2023年には全長1200 m, 最高速度77 km/h、3度のリニア加速(LIM)という、大型コースター顔負けのスペックを持つファミリーコースター(Big Bear Mountain)を導入しています。いずれもやはり、大きなアップダウンは無くて、小さなキャメルバックやカーブを何度も繰り返すコースレイアウトです。

Dragonflierの類似機、Deno’s Wonder WheelのPhoenix。大きなアップダウンは無く、ひたすらカーブとわずかなアップダウンを繰り返していることがわかります。

途中で後ろ向き走行をするためには、コースのポイント切り替えが必要になります。大型ファミリーコースターの流行で、これをスムーズにする技術が進歩してきたため、最近ではコースレイアウトも複雑さを増しつつあります。例えば、2024年にDrayton Manorに新設が予定されているコースターでは、最初の巻き上げ部分に対して、途中で後ろ向きに再侵入したり、1度の乗車では全コースを走行しなかったり、といった極めて複雑なコースレイアウトが予定されています。

また、レールごとドロップする、ターンテーブルを設置するなど、様々な工夫が開発されていまして、これによって驚きのある走行感と、テーマ演出へのマッチングが図られていくものと思われます。

こうして、ファミリーコースターは徐々に大型化・複雑化するとともに、大型コースターの計画自体もファミリーコースター化しつつあります。

 

なぜ大型ファミリーコースターが流行しているのか

では、なぜファミリーコースターがこんなにも流行しているのでしょうか。

ファミリーコースターのコースレイアウトの楽しさ、驚き(後述します)というのはもちろんですが、集客力にも優位点があります。

従来の大型コースターは、Thrill seeker(スリル好き)と呼ばれる人たちを対象にしたものでした。世代としてみると、Teenager(中高生)から既婚で子供のいないくらいまで、大体13歳~35歳くらいの範囲、というイメージです。特に10代後半~20代前半がボリュームゾーンになります。ただ、10代中盤くらいまでは単独での遠出が難しい一方で、年齢が上がるにつれて、家族で出かける機会が減っていきます。20代以降は徐々に子供のいる家庭も増えて、ターゲット人口自体が年齢とともに減っていく世代です。

一方で、大型コースターは大型化やスリルの過激化、ライドシステムの複雑化によって、ライバルに対する優位性を築こうとすると、高額な投資が必要になっていました。Thrill seekerは遊園地のメインターゲットであるとはいえ、ターゲット層が広がりに欠けるなかで、投資に対するリターンが小さい、また、来園者が休日に偏るといった問題を抱えていたと思われます。

ファミリーコースターが対象にするのは、身長100 ㎝以上の世代です。米国で身長100 cmを超えるのは、おおよそ3~4歳ごろ。ファミリーコースターのターゲットは、このくらいの低年齢から小学生くらいまでの子と、その親を中心として、さらにThrill seekerだけでなくマイルドな刺激を求める人も対象にしています。

実際、オーランドのテーマパークでは、来園者のボリューム層が40代(ファミリー層の親世代)という情報もあります[1]。テーマパークに行く金銭的余力があって、一度に多人数での来園を見込める。しかも、子供が楽しそうにはしゃぐことがわかっていれば、親に子供を連れていく動機を与えやすい。

加えて、ファミリー層はどうしても子供にせがまれるため、「飲食を我慢する」「できるだけ節約して過ごそうとする」という努力をしづらい状況にありますので、客単価が高くなりやすい。ですので、狙いたい客層であることは間違いないのです。

ファミリー層の中でも、日本で言う小学校中学年~高学年相当の世代は、これまで遊園地で蔑ろにされがちでした。一般的な遊園地では、幼児向けのアトラクションと、Thrill seeker向けのアトラクションは多数あるものの、その間をつなぐアトラクションが少なかったのです。そうした客層の隙間を埋める目的で、ファミリーコースターは絶好のアイテムです。また、ターゲットに隙間をなくすことで、隙間世代が遊園地から離れてしまったあと、Teenager期以降に遊園地に戻ってこない、といった事態も防ぎやすくなります。

 

ファミリーコースターは何が楽しいのか

最後に、ファミリーコースターが大人をも引き付ける秘訣を考えておきましょう。

ビッグサンダーマウンテンやスペースマウンテンなど、古いファミリーコースターも、未だに60分待ち以上が当たり前に発生するほどの魅力を有しています。もちろん、ディズニーだから、という要素も多分にありますが、そもそもカーブとわずかな上下動主体のコースを、高速で駆け抜けるということ自体にも本質的な魅力がありそうです。

従来の、スリル重視のローラーコースターは、事前に、あるいは乗車時の視覚的に恐怖をあおってアドレナリンを放出させ、さらに日常ではありえない動きによって、脳の中の偏桃体を活動させることで、緊張状態を作り出します。一方で、脳は「怖いけど安全である」という認識を持っているので、安全な環境下で適度に緊張が高まった状態を楽しみ、また、走行終了後に緊張からの開放によって興奮し、という感情の起伏を楽しむ形が主体でした。

当然ながら、これがローラーコースターマニアになると、視覚的恐怖等は生じません。むしろ、リラックスした状態で、これから体験する「動きを楽しもう」という意識があって、むしろセロトニン濃度が高まった状態にあると考えられます。一方で、人間が道具を持たなければあり得なかったような速度と動きを体験するわけですから、乗車時には一時的に偏桃体が活動します。リラックス状態の中で一時的にアドレナリンが増え、力の抜けた興奮状態を楽しみます。

ファミリーコースターのコースレイアウトは、視覚的恐怖や乗車前の恐怖をあまり感じさせません。これによって、ローラーコースターマニアがローラーコースターを楽しむ楽しみ方を、マニアではない方にも可能にした、と考えることができます。リゾートアクティビティとしてのローラーコースター、というイメージです。

スキーやスノーボードを楽しむ方が多いように、スピードを感じながら左右にカーブするような動きというのは、本質的に人間に楽しいという感情を想起させると思われます。これを、より安全に、かつスピードや加重が大きい形で楽しめるのが、ファミリーコースターなのです。

たとえるなら、従来の大型コースターが、抑圧からの開放というストーリープロットを重視するハリウッド映画的であったのに対して、ファミリーコースターは、感情の1方向のベクトルの大小で起伏を付けるフランス映画的要素がある、と言えるのではないでしょうか。ファミリーコースターのメーカーが、欧州中心であることとも無関係ではないと考えます。

 

まとめ

ローラーコースターから、スリルという余計な感情がそぎ落とされ、高速で走行しながら加重の変化を楽しむという、より根源的な方向に向かっているのが、最近のローラーコースター界の潮流だということがわかってきました。当然ながら、この流れは経済原理にも基づくものです。

一方で、これが永続的な潮流であるかというと、決してそうではないと考えます。ファミリーコースターは、あくまでローラーコースターのバリエーションの1つであって、唯一の解ではありません。複数のローラーコースターを設置する遊園地が、ターゲット拡大の策として導入数を増やしていくと考えられますが、一方で、これだけでは遊園地は成立しません。当然ながら、より過激なスリルを求める人にも対応する必要がありますし、より小さな子供向けのローラーコースターも必要になります。

新たなジャンルを開拓できたため、当面この流れは続くと考えますが、一方で絶対的な価値観ではない、という点には注意が必要です。

 

参考文献

[1] Theme Park Analytics “Analysing Florida theme park incidents: The road is long and full of regex“. 2024年2月15日閲覧

 

引用方法

引用時は、下記を明記してください。

Yu Shioji, J. Amusement Park (2024) 240009.

 

利益相反

本稿に関わる利益相反はありません。

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