Author: Yu Shioji (塩地 優) Article type: Article (研究) Article number: 230013
イントロダクション
ローラーコースターの設計思想は、コースレイアウトや座席だけでなく、車両背面にも表れます。中でも、車輪ユニットを見ると、設計者がそのコースターをどう考えているのか、多くの情報を読み取ることができます。
そのローラーコースターは、横方向へのGがかかるのか。かかるのであれば、Gが変化する際に発生する振動や衝撃を、どう処理しようとしているのか。急なカーブやねじれは、どう対処するのか。
例えばハーネス形状は、法規制等によって制限がかかったりしますが、車輪ユニットにはそうした制限がほとんどありません。ですから、設計者の意図は車輪周りではストレートに表現されます。
近年、コースレイアウトが複雑化したことで、コースレイアウトからローラーコースターを分類することは困難になりつつあります。本稿では、車輪ユニット形状の分類を通して、ローラーコースターの分類に役立つ情報を引き出すことを目的としています。
本稿では、ローラーコースターの車輪を、プラットフォームにおけるレールとの相対位置から以下のように名前を付けます。
- レールの上にある車輪: 主輪
- レールの横にある車輪: 側輪
- レールの下にある車輪: 底輪
一般には、側輪はガイド輪、サイドフリクション輪など、底輪はアップストップ輪などと呼ばれる場合があります。
また、ここでいうローラーコースターは、以下の定義に該当するものとします。
ただし、パワードコースターの駆動輪周辺については、汎用性のない機構を備えているため、ここでは省略します。
車両あたりの車輪ユニット数による分類
ローラーコースターの車輪ユニット数は、1両あたり2つ(図1, 2)または4つ(図3, 4)に分類されます。
そのそれぞれについて、ボギー軸(左右の車輪ユニットをつなぐ軸。主輪が1輪の場合は、厳密にはボギー軸とは呼びませんが、便宜上ここではすべてボギー軸と呼称します)がある場合と無い場合に分かれます。
これによって連結部が変わってきたりするのですが、その話はまた追々。
車輪ユニットが1両あたり2つだと、
- アップダウン方向にレールのカーブがきついコースレイアウトに強い
- 特段の工夫をしていない4輪タイプと比べると、ねじれにも強い
という特徴があります。一方で、車両同士の連結部が大きくなりがちで、コスト増の要因になるため、大型コースターに採用されることが多いです。
車輪ユニットが1両あたり4つだと、写真から見てもわかる通り、連結部がかなり簡潔になります。これは、各車両の台車が、それぞれの車両内で完結するためです。車輪ユニットが1両あたり2つだと、連結部も含めて台車、という構造にならざるを得ないので、耐荷重を高めるために大きな構造になります。
また、1両あたりの長さを長くとりやすいので、車両あたりの乗客数を多くとりやすいのが特徴です。ビッグサンダーマウンテンやスペースマウンテン、上記Magnum XL-200では1両あたり6名乗車できます。
一方で、激しいアップダウンやねじれには弱くなるため、子供向けのコースターなど、小型のコースターに多く採用されます。また、1両編成の場合は、特にそのような制約は無くなりますので、高飛車のような大型コースターにも採用されます。Magnum XL-200のように、複数両編成の超大型コースターに採用している例は少数派です。こうした形の複数両編成コースターは、鉱山列車がテーマのコースターに多く採用されるため、「マイントレイン」と呼ばれることもあります。
車輪ユニットあたりの車輪数による分類
もっとも一般的な形は、主輪2つ、側輪2つ、底輪2つの計6つで車輪ユニットを構成するパターンです。ここでは、これに該当しない場合について分類していくことにします。
側輪または底輪が無い場合
きわめて稀な例ではありますが、側輪や底輪が無い場合があります。歴史的にみれば、初期のローラーコースターは主輪のみで動いていましたし、その後もサイドフリクションと呼ばれる、車体横に取り付けた車輪で脱線を防いだりしていました。
脱線を防ぐには、サイドフリクションのような機構を備えるか、カーブで減速するためにブレーキマンが同乗するか、あるいは絶対に脱線しないような、ほとんどカーブが無いレイアウトにする必要がありました[1]。
第二次大戦後には、そうした使い方はほとんどされなくなってきますが、例外的に主輪のみの場合があります。それが、図5に示しています、池の平ファミリーランドのボブスターです。これは日本のトーゴというメーカーが作ったといわれているもので、シュワルツコフのジェットスターシリーズをまねて作っています。シュワルツコフのジェットスターは、全部で50機も作られた名機で、日本には阪神パークにありました(後に那須ハイランドパークにスピードボブスレーという名前で移設、現存せず)。
シュワルツコフのジェットスターは、主輪のほかに、側輪と底輪の機能を併せ持つ、斜め下からレールにあたるような車輪を備えていました[2]。シュワルツコフは大型コースターにもこうした機構を用いていました。シュワルツコフのジェットスターをさらに簡略化しているのがトーゴのボブスターシリーズで、主輪のほかは、レールを包むように鋼板が存在しているだけです。主輪はガイド機能を持たせるため、大きく窪んでいます。これによってレールから外れないようになっているわけです。しかしながら、これだけでは激しい横Gがかかると危険ですので、コースレイアウトはほぼ横Gがかからない、かなり穏やかなものになっています。
シュワルツコフは途中から安全性を重視し、主輪、側輪、底輪すべてを備える形式に変更しました。主輪と斜めの車輪だけだと、不慮の事態に安全に対処することができないのです。トーゴも主輪のみで製造したのは、現在確認できる範囲ではボブスターシリーズのみです。
主輪が1輪のみの場合
ここからは、車輪数でみていきましょう。図6に示しますように、主輪が1輪のみの場合は、1両あたりの車輪ユニットが4つある場合がほとんどです。
主輪が1輪のみの場合、車輪ユニットに前後方向の回転自由度を持たせることができません。レールのアップダウンに伴う上下方向のカーブに、車輪ユニットが追従できないためです。車輪ユニットがあらゆるカーブに追従するためには、主輪、側輪、底輪を問わずそれぞれ2輪必要になります。車輪ユニットが上下方向のカーブに追従することは必須ではないのですが、1輪しかなくて追従できない場合、制約が発生します。図7に示しますように、主輪と底輪を結ぶ線が、レールに対して垂直ではなくなるのです。
このため、上下方向にレールがカーブしているところでは、まっすぐなところと比べて主輪と底輪との間隔が広くなければならないのです。例えば前後輪間の距離が1.5 mの車両で、曲率半径が3 m程度の急なドロップがあったとしますと、その場合の主輪-底輪間の距離は、平坦な領域と比べて3%ほど広がります。レール外径が10 cmだとしますと、その3%は3 mmですので、無視できない数字です。この差を許容するために、通常は図6の写真に見られますように、底輪とレールの間にクリアランスを設けます。
このように底輪がレールから離れている状態では、車両が浮き上がる方向のGがかかると、「ガタン」と揺れを生じてしまいます。ですから、主輪が1輪のみの場合には、浮き上がったり上下反転したりするような激しいコースレイアウトにはできません。また、これを受けまして、底輪はあくまで万が一の場合のために付けるだけのものになりますので、コンパクトな車輪がついていることが多いです。
側輪が1輪のみの場合
これはかなり特殊な場合です。
主輪の場合は、車輪ユニットが1両あたり4つあれば、前後の車輪ユニットを合わせてレールに追従できれば良いのですが、側輪の場合はそうはいきません。よほど緩いカーブしかない場合を除いて、側輪は必ずカーブに合わせて車輪ユニット自身、あるいは左右の車輪ユニットを合わせてカーブに追従できなければなりません。先にも述べました通り、1輪のみではカーブに追従できませんから、コースレイアウトの中にカーブがあれば、必ず側輪は2輪ずつ必要なのです。
では、どういう場合に側輪が1輪で良いのか、考えてみましょう。1つ考えられるのは、上記の通りカーブが非常に緩い場合です。この場合、車輪ユニット自身がカーブに合わせて回転したり、ボギー軸を備えたりしない形になります。車輪ユニットは左右に回転する機構を一切持たずに、連結部だけが左右に回転します。この場合、上の主輪‐底輪の話と同じように、レールと側輪の間に遊びを必要とします。最小曲率半径(レール中心)が10 m, レール幅1 m, 車両の前後車輪間距離(いわゆるホイールベース)1.5 mの場合に、3.2 mmほどの遊びを必要とします。カーブのたびに大きく外側に振られて、衝撃を生じるわけですから、きわめて乗り心地が悪くなります。また、プラットフォーム周辺でよくある、ゆっくり180度曲がるようなところでは、曲率半径が3 mといったきつい値になることもあります。こうなると、44 mmもの遊びを必要としますので、主輪ごと脱線しかねません。ですから、このような使い方をしている例というのは、現代型のコースターではまずありません。
もう1つ考えられるのは、そもそもコース中にカーブが存在しないという場合です。先ほど考察したパターンの、極端な例ですね。そうなると、側輪はレールに沿って車両を動かすという役割は無くなって、脱線防止用に存在するだけですから、1輪でも問題なくなります。これがどう言うときに成立するのかと言いますと、直線状のシャトル型の場合です。つまり、上下動はあるものの、カーブが一切ないところを往復走行するようなコースターの場合です。シャトル型でも、例えば垂直ループがあったりしますと、ループ部にわずかに左右のずれを生じますので、成立しなくなります。成立するのは、ループすらないシンプルなシャトル型の場合です。
ただ、それでも大手メーカーが作る場合には、側輪に水平回転方向の可動軸を設けて、側輪も2輪とする場合がほとんどです。これは、既存の車輪ユニットの設計を活用することと、走行安定性を高めるという2点を意図しているものと思われます。ですので、シャトル型であっても1輪のみとなるのは、きわめてレアなケースです。例えば、日本の豊栄産業製、池の平ファミリーランドのシラカバウッドコースターに、そうしたケースを見ることができます(図8)。
底輪が1輪のみの場合
底輪が1輪のみになるパターンというのは、様々なものが考えられます。
1つは、上述の主輪が1輪のみの場合(図6)。この場合は、あえて底輪を2輪にする理由が無いことに加えて、そうすると設計上の複雑さも増してしまうことから、通常は主輪が1輪であれば、底輪も1輪になります。
主輪が2輪の場合は、少し扱いが厄介になります。図9に示す通り、主輪と底輪のギャップは、上下方向にカーブしている場所では、レール幅と比べて広くなったり狭くなったりします。主輪と底輪の水平位置がズレていることに由来して、この差は、底輪が2つある場合と比べて大きくなります。
したがって、主輪が2輪の場合に底輪を1輪のみにするのには、何かしらの理由があります。1つは、主輪が2輪であるけれども、底輪は「使わないから」1輪のみになっている場合。これは子供向けのコースターなどによくみられるパターンです(図10)。この場合は、底輪はレールから離して設置されます。
もう1つは、かなり特殊な例ですが、「底輪は使うけれども2輪にする必要がない」場合です。底輪を使う必要があるというのは、ライド鉛直方向のGが0またはマイナスになったり、背面走行をする場合があるようなケースです。これ自体は、ハードなコースターではよくあることです。そうしたコースターで、2輪にする必要がない、というのがレアケースなのです。
主輪はプラス荷重に耐えなければなりませんから、車両の想定荷重の最低でも数倍に耐えられるだけの構造にしなければなりません。一方で、底輪は人体にかかる負荷の関係で、重力の何倍もの荷重がかかることはありません。何らかの不具合が発生したときなど、反転したままの状態で止まる状態が、最大荷重。最低限、車両の想定荷重+安全係数分だけ支えられれば良いわけです。耐荷重的には、1輪のみで十分な場合がほとんどです。
ただし、車輪ユニットが1両あたり左右1つずつしかない場合、各車輪ユニットに底輪が1つしか無いと、万が一底輪が1つ脱落すると、車両ごとレールから外れてしまう恐れがあります。フェイルセーフの観点から、2輪必要なのです。一方で、1両あたり車輪ユニットが4つある場合は、底輪が1つ脱落しても車両がレールから外れることはありません。したがって、万が一の場合にも底輪が車輪ユニットあたり1つあれば十分なのです。
つまり、「上下反転や低GあるいはマイナスGになる場面があるハードなコースターであって、1両あたり車輪ユニットが4つある」場合にのみ成立する形式なのです(図11)。
次回の記事では、車輪ユニットの機能による分類を行います。
参考文献
[1] ドイツ語版wikipedia https://de.wikipedia.org/wiki/Achterbahnfahrwerk (2023/07/09閲覧)
[2] Schwarzkopf Coaster Net https://www.schwarzkopf-coaster.net/achterbahnen-detail-wagen-GF.htm (2023/07/09閲覧)
引用方法
引用時は、下記を明記してください。
Yu Shioji, J. Amusement Park (2023) 230013.
利益相反
本稿に関わる利益相反はありません。
コメント