なぜ遊園地にはくるくるまわるアトラクションが多いのか – 遊園地と機械1

Author: Yu Shioji (塩地 優)
Article type: Outreach(解説)
Article number: 240022

遊園地の乗り物には、メリーゴーラウンドやティーカップなど、くるくるまわるものが多くあります。これは、置く場所のスペースが小さくて済む、という理由ももちろんありますが、機械の特性も理由の1つです。ここでは、機械はなぜ、くるくるまわる回転運動が得意なのか、ということを考え、機械というものの本質を考える、1つのきっかけにできればと思っています。是非、これを読んだ後に遊園地に行ってみて、いろんな回転運動を見つけて、なぜそんな動きをしているのか、考えてみてください。

 

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軽く動かすための回転運動

電機の力などによらない、人力や水力の時代から機械というものは存在します。例えば、馬や牛などが引く、荷車もその1つです。車輪と荷台からなる、シンプルな機械ですね。

これは、何か荷物を運ぶ際に、持ち上げて運ぶと大変だから、引きずってしまおうという発想がベースです。ですが、モノを引きずるのは意外と大変です。重たいものにヒモを付けて引っ張っても、なかなか動きません。タイヤ引きのトレーニングのイメージです。地面とモノが触れていると、摩擦力によって、動かすのに大きな力が必要になってしまいます。

では、その摩擦力を減らすにはどうすれば良いでしょうか。例えば、モノの下に針のような足を付けて、接触面積を減らしてみるというのはどうでしょう。実は、これには効果がありません。摩擦力は、(みかけの)接触面積には依存しないのです。モノの重さと、材質だけで決まってしまいます。

人類が知っている中で、モノを軽く動かすために最も効率的な方法は、車輪を使うことです。車輪を回転させることで、モノとモノとが滑ることによる摩擦を排除できます。ただ、よく考えて頂きますと、車輪には車軸が必要で、車軸と、その軸を通す部分との間には摩擦が発生します。上記の通り、摩擦力は接触面積には依存しませんから、結局同じ摩擦が発生してしまうように思われます。この点は、現代であれば、例えばボールベアリングなどを用いることで、その部分も転がる形にしてしまうことができます。仮に軸受けがベアリングでは無かったとしても、油をさすなどの工夫によって、摩擦を低減することができます。これは、車輪を介すことで摩擦が発生する場所が固定されるために可能になった工夫です。モノを引きずる場合には、経路上全てに油を撒かなければなりませんが、車軸であれば一度させば、長距離移動しても油が留まっていますよね。

 

連続して動かすための回転運動

もう1つ、古くからある、回転運動をする代表的な機械に、水車があります。水車は、水が流れ落ちる力を回転運動に変換する機械です。水が流れ落ちる力を利用するだけなら、例えばつるべ落としのように、往復運動でも問題ありません。例えば、ある時間間隔で何かを持ち上げる、という動作であれば、つるべ落としの方が適しています。

では、なぜ水車は回転運動をしているのでしょうか。これは、往復運動のように途中で途切れることなく、連続的に動かすためです。連続的に動かすことによって、水車の回転に勢いを与えることもできるため、より大きな力を取り出すことができます(あるいは、動かし続けるために必要な力が小さいと考えることもできます)。水車は、小麦を挽くなど、大きな力でたくさんのものを処理するために用いられていました。ですから、大きな力を取り出せることと、連続して動き続けることが必要だったのです。もちろん、回転運動の方が粉を挽く器具(臼)に適しているというのもありますが、往復運動の方が大きな力を連続して取り出せるのであれば、往復運動を回転運動に変える機構が開発されていたはずです。

 

回転とエネルギー変換

回転運動の特徴が2つあることはわかってきました。こういった特徴があるため、石油や天然ガスの化学エネルギーや、水の位置エネルギー、原子が持つ核エネルギーなどを電気エネルギーに変換する際にも、回転運動が用いられます。このように、何らかのエネルギーを電気エネルギーに変換する機械を、「発電機」と呼びます。原理について詳しくは、[1]をご参照ください。

こうして作られた電気エネルギーは、送電線を通って遊園地に届けられます。発電機は、モーターとほとんど同じ形をしていますので、発電機で作られた電気は、モーターを動かすのに適しています。家庭ではあまり見かけませんが、3相交流という方式がありまして、特に200 Vの3相交流を動力と呼ぶことがあります。これは、モーターを動かすのに適した方式のため、「動力」という名前が付いています。3相交流を利用したモーターについて詳しくは、[2]をご参照ください。

遊園地では、ほとんどの遊具を電気で動かします。稀に、エンジンや蒸気機関で動いているものもありますが、これら「内燃機関」と呼ばれる動力源も、回転運動を作り出す機械です。これらは、もともと化学エネルギー、あるいは化学エネルギーから熱エネルギーに変換したものを用いて、直線運動を取り出す機械なのですが、それを回転運動に変換する機構を備えています。ですから、遊園地の乗り物は、ほとんどが回転運動を動力源としています。その回転運動を、どのように「面白い動き」に変えるかを考えたときに、どうしても回転運動をベースにした乗り物が多く生まれます。

 

人力の時代の遊具

当然、遊園地の遊具は、古くは人力でした。人力の時代からあるものとして、例えばメリーゴーラウンドを上げることができます。メリーゴーラウンドは、同じ乗り物をあらわすカルーセルという語から、円形に騎馬や山車を走らせる儀礼的な模擬戦闘を起源とする向きがあります[3]。

メリーゴーラウンドの起源となった、garosello(※イタリア語。フランス語でCarrousel。イベントの起源はフランス。)と呼ばれるイベントの一例。1655年、スウェーデンの女王クリスチーヌがローマに来たことを記念して行われたもの。作者はFilippo GagliardiとFilippo Lauri。[4]

ただし、作り手の意図はどうあれ、乗る側からすればあくまで「馬に乗る」乗り物。模擬戦闘を起源とするイメージは早々に薄れていったものと思われます。そうして起源が忘れ去られた後にも回転運動は維持されたことから、もともとのCarrouselが回転していたからメリーゴーラウンドが回転運動をしているわけではなくて、そこには別の理由があると考えられます。人力で動かすためには、一度動かし始めたら、小さい力で動かし続けられることが求められます。

実際、それ以前の祝祭における遊具も、回転タイプのものが多く見られます。

古くからある回転ライドのスケッチ。1620年のもの。[5]

チェーンタワーに近い水平回転ライド、観覧車に近い垂直回転ライドのいずれも、当然ながら人力で回転させています。大型ブランコや大型シーソーなどと比べれば、1人で多くの人数を楽しませることができています。

遊園地の大型遊具の本質は、多くの人に楽しい体験を届ける、楽しさの量産にあります。そのためには、人力の時代には少ない運営人数と小さな力で、現代では低コスト(≒小さくて少ないモーター+省電力)で運営できることが重要です。このため、時代を問わず回転運動が必要とされていると考えられます。

 

遊園地の様々な回転運動

モノを動かすための機械が回転運動を作り出すことと、小さな力で動かすには回転運動が適していることが、遊園地に回転運動が多くなる理由だということがわかってきました。では、最後に様々な回転運動の事例を見ておきましょう。

横回転 – ターンテーブルタイプ、固定アームタイプ

ターンテーブルタイプとは、ティーカップに代表される、回転するボードに対してライドが固定されているタイプです。メリーゴーラウンドも一見ターンテーブルに固定されているように見えますが、多くの場合は馬が回転するアームに固定されています。

ただし、ターンテーブルの裏には当然ながら鉄骨があります。乗り物部は重量がありますから、大抵は鉄骨に固定される形になっています。ですから、メリーゴーラウンドとティーカップを「アームがあるかないか」で分類するのは困難です。そこで、固定フレームにライドが直接付いているタイプの乗り物を、アームが動くタイプのアトラクションと分けて、固定アームタイプと呼ぶことにします。

座席とアームの間に、変形できるチェーンなどが挟まりますが、チェーンタワーや飛行塔などはここに分類します。回転軸が斜めになったりしますが、トラバントやローターウェーブなどと呼ばれる乗り物や、パラトルーパーなどもここに含めることができます。

これらは、基本的には中心軸をモーターで回転させています。ターンテーブルに、地面に固定したタイヤを押し当てて、タイヤを回転させることで直接駆動するタイプもありますが、見た目での判別は難しいです。

 

横回転 – 可動アームタイプ

固定アームタイプがあれば、当然、可動アームタイプもあります。メリーゴーラウンドはどう分類するのか難しいところですが、アーム自身が回転していますので、これも可動アームタイプに含めることができます(詳しくは、次回以降の解説で詳述します)。

あるいは、「レッドバロン」などと呼ばれる、アーム式の飛行機型ライドやゾウさん系ライドのように、アームが上下するものもここに含まれます。

ややスリリングなタイプの回転系ライドも、多くはこの形式です。

回転部分は固定アームタイプと同じで、中心軸をモーターで回転させています。アームや座席部分をどう動かすか、というのが工夫ポイントです。可動部は油圧や空気圧、場合によっては局所的なレールなどを用いて制御しています。多様なパターンがありますので、これもまた後日ご紹介します。

 

縦回転 – 定速タイプ

縦回転も、横回転とほとんど同じなのですが、違うポイントは重力の向きです。縦回転では、ライドの動きと重力の向きが一致する部分がありますので、重力によって加速や減速をさせることができます。

ただし、座席を円形に、均等に設置すれば、そうした加減速は発生しなくなります。定速タイプとは、そうした乗り物のことです。代表例は、観覧車。

横回転と縦回転のミックスになりますが、エンタープライズというスリルライドも、一定速度で縦回転します。

そうしたスリルライドや、小型の観覧車の場合は中心軸をモーターで回転させていますが、大型の観覧車は、外側のフレームにタイヤを押し当てて回転させるタイプが多いです。

 

縦回転 – スイングタイプ

観覧車のように乗り物を一定間隔で均等に配置して、回転速度を一定に保つ工夫をしなければ、縦回転の場合、乗り物はブランコのようにスイングすることになります。一回転する乗り物も当然ありますし、

一回転しないものであっても、動きは円の一部ですので、回転運動に含めてしまうことができます。

一回転するものや、足ブラ状態のものは中心軸をモーターで回転させていますが、バイキングタイプのものは、ライド下部にタイヤを押し当てて駆動するものがほとんどです。

 

各乗り物の駆動方法の詳細などは、以降の解説で詳述していきますが、ここでは、ひとまず遊園地には様々な回転がある、ということがご理解頂けたかと思います。

乗り物の構造をより詳しく知りたい方は、例えば「透視絵図鑑なかみのしくみ 遊園地」をご参照ください。コストパフォーマンスに優れた本ではありませんが、乗り物の構造が図解で解説されています。

 

参考文献

[1] 四国電力「発電の原理」https://www.yonden.co.jp/cnt_kids/chapter1/electric/principle.html (2024年5月2日閲覧)

[2] 東北制御「交流モーターの原理を知ろう!」https://tohokuseigyo.net/tcs_column_all/tcs_column_motor/%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC6/ (2024年5月2日閲覧)

[3] Stephen M. Silverman “The Amusement Park,” Black Dog & Leventhal Publishers 2019.

[4] Filippo Gagliardi and Filippo Lauri, “Carousel in the courtyard of the Palazzo Barberini in honour of Christina of Sweden on 28 February 1656,” https://www.museodiroma.it/en/opera/carosello-nel-cortile-di-palazzo-barberini-onore-di-cristina-di-svezia-il-28-febbraio-1656.

[5] Peter Mundy, ed. Sir Richard Carnac Temple, “The travels of Peter Mundy in Europe and Asia, 1608-1667,” volume 1 p.58, Cambridge Printed for the Hakluyt Society 1907. https://archive.org/details/travelsofpetermu01mund/page/54/mode/2up

 

引用方法

引用時は、下記を明記してください。

Yu Shioji, J. Amusement Park (2024) 240022.

 

利益相反

本稿に関わる利益相反はありません。

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