メリーゴーラウンドはどのようにして馬の動きを再現しているのか – 遊園地と機械2

Author: Yu Shioji (塩地 優)
Article type: Outreach(解説)
Article number: 240023

遊園地の定番アトラクション、メリーゴーラウンドは、木馬が回転するステージの上で上下し、さらに前後に傾くことで、馬が走る動きを再現しています。なぜ、そしてどのようにして、このような動きを作り出しているのか、馬の動きもふまえて考えてみましょう。

この解説は、お子様と対話される大人の方向けに記述されています。お子様がそのまま読むと難しい内容のため、大人の方が咀嚼をしたうえで、ご自身の言葉で対話をしてみてください。文中には、ところどころに「問題」を用意しています。お子様に問いかけながら、答えを引き出すように対話をしていくと、話題がスムーズに展開されます。

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馬の走り方

馬には、実は4種類もの走り方・歩き方があります。

まず、普通に歩いている状態は常歩(なみあし)と言います。英語では、普通にWalkです。

続いて、4足歩行ならではの歩き方で、速歩(はやあし)というものがあります。英語ではTrotです。左前脚と右後脚だけで地面を蹴って、続いて右前脚と左後脚だけで地面を蹴って、と対角線上の足を交互に使って走ります。上下振動が大きくて、人が乗るときに座ったままだと馬も走りにくいので、馬が走るリズムに合わせて人が立ったり座ったりする場合を軽速歩(けいはやあし)と言います。

さらにスピードを上げると、駆歩(かけあし)と呼ばれる走り方になります。英語では、Canterです。人でいうジョギングくらいの走り方。前脚と後脚を交互に動かすのですが、少しだけ外側の足が内側の足より後ろにいきます。走りが浅いので、脚が3本地面に付く瞬間があります。

全速力で走るのが襲歩(しゅうほ)。英語では、Gallopです。競馬のような、地面から浮いている時間が長い走り方です。脚は、最大でも地面には2本しか付きません。

馬の走り方をご紹介したのは、現代のメリーゴーラウンドの多くは、ギャロッパー、Galloperと呼ばれるタイプだからです。襲歩を再現した乗り物なのです。

馬の脚をよく見ると、後ろ足で地面を蹴り上げた後、空中に浮いている瞬間の造形になっていることがわかります。

カルーセルとギャロッパー

英語圏では、メリーゴーラウンドは「カルーセル」と呼ばれることの方が多いです。カルーセルは、多数の馬が円形に歩きながら行われる、模擬戦闘が言葉の起源。詳しくは、以下をご参照ください。

カルーセルは、別名にメリーゴーラウンド、ラウンドアバウト、ギャロッパーなどがあります。

何をカルーセルと呼び、何をギャロッパーと呼ぶのか、というのはいろいろな定義があるのですが、例えば参考文献[1]では、馬が上下に動くものをギャロッパー、上下に動かずステージ上に固定されたものをカルーセルと呼ぶことが多い、としています。ただし、時計回りに回転するものをギャロッパー、反時計回りに回転するものをカルーセルと呼ぶこともあったりして、その定義は様々です。ここでは、馬の動きによる定義である、上下動+前後傾斜するものをギャロッパーと呼ぶことにしましょう。

ちなみに、メリーゴーラウンドに似た乗り物には、動物がステージに固定されたものや、馬が上下に動きながら前後に水平移動することで、レースをしているような感覚を味わえるもの(下記動画参照)もあります。

馬の動きの作り方

問題1 メリーゴーラウンドは、どのようにしてギャロップの動きを再現しているでしょうか

もともと、メリーゴーラウンドは円形のステージが回転するタイプの乗り物です。今でこそ、こうした動きを作り出すのには、小型のエンジンやモーターなどがありますし、ライドの上下動を作り出すのにも油圧シリンダーなどの小型の駆動法があります。ですが、動力を使うメリーゴーラウンドが開発された19世紀は、まだ産業革命から1世紀。車に内燃機関が搭載されるのは1880年代になってから。普及するのは1910年代のことです。電気が遊園地にやってくるのも、やはり20世紀になってから。動力としては、大きな蒸気機関を使わざるを得ません。スペースが限られているメリーゴーラウンドに、複数の蒸気機関を搭載するのは困難ですから、馬の動きはステージの回転運動を利用したものにならざるを得ません。

回転運動を上下動に変えるだけなら、話はシンプルです。例えば、ステージの下にアップダウンのあるレールを用意しておいて、その上を車輪で走らせれば良いのです。

ステージの下にある、アップダウンのあるレールの上を走行することで、馬が上下動する仕組み

ただし、この場合には上下動しか作ることができません。前後に傾く動きを作り出せないのです。厳密にいえば、レールを上下から車輪で挟んであげれば前後傾斜を作れなくはありませんが、走行が非常に不安定になって、場合によっては引っかかって止まってしまいます。このあたり、詳しくはローラーコースターの機構に関するご紹介で別途詳述します。

では、前後に傾く動きはどうやって作っているのでしょうか。実物のメリーゴーラウンドで、上を見上げてみましょう。多くのメリーゴーラウンドでは、この機構は隠されていますが、稀にむき出しになっているものがあります。

東京ドームシティアトラクションズのヴィーナスラグーンの天井

馬を縦に貫く棒が、クネクネした棒にぶら下がっていることがわかります。このような棒にぶら下がった馬が、どのように動くのかを考えてみましょう。

棒が最も高い位置にある状態は、馬も高い位置にあり、水平になっています。そこから棒が90度回転すると、馬は少し下に移動して、また、前に傾きます。180度回転すると、馬は最も低い位置に移動して、水平になります。270度回転すると、馬は少し上に移動して、後ろに傾きます。これを繰り返すことによって、上下の動きと前後の傾きを実現しているのです。

ここで使われているクネクネした棒のような機構を、「クランク」機構と言います。使われ方は様々で、例えば手回し式の充電器やラジオのようなハンドルタイプでは、回転運動に必要な力を小さくするために、ガソリンエンジンのような内燃機関では、燃料の燃焼による膨張という直線上の運動を、回転運動に変換するために使われます。ただ、前車は回転運動同士の変換、後者は直線運動と回転運動の変換ですが、傾斜は必要ないので、それを取り除く機構を加えます。直線運動と傾斜の両方を利用するメリーゴーラウンドは、クランクの機構を最大限に、上手に活かしているのです。

【高度な話題】馬の傾き角度

この項目は、主として円と接線を学習済みの中学生以上を対象としています。

馬が傾く角度は、クランクの大きさと、クランクの回転中心から支点までの長さの比率によって決まります。

まず、支点の形状を考えておきましょう。馬を縦に貫く棒の支点は、馬の下にあります。大雑把には、以下のように棒に細長い穴をあけて、その穴に固定されたピンを通しておけば、ピンの位置が支点になります。

厳密には、安全性面から少し違った構造が使われることも多いのですが、話の単純化のため、ここではこのような構造で議論を進めます。

支点は、馬の下のラッパ状のケースの中に入っています。

問題2 クランクと、馬を貫く棒との接続部は、クランクが回転すると円の軌道を描きます。この軌道上で、馬が最も傾くのは、クランクが円周上のどの位置にある場合でしょうか。

答え: 支点から円に引いた接線の、接点の位置にあるときです。

この時、クランクの回転中心から接点に引いた線と接線とは、垂直に交わります。求めたい角度は、クランクの回転中心から支点に引いた線と、支点から円に引いた接線とのなす角です。この角度は、中高の範囲では、図の線分長さaとbが1:1または2:1の時にだけ求まりますが、実際にはあらゆる場合に求めることができます。関数電卓では、sin-1(b/a)またはarcsin(b/a)で求まります。b/aと角度との関係を、下の図にまとめます。ちなみに、a=bになると、支点とクランクの回転中心が一致してしまいます。それ以上b/aが大きくなる場合というのは存在し得ません。

例えば、aが2m、bが20cmだとすると、馬の最大傾きは5.7度です。クランクの回転半径(b)が同じであれば、クランクの回転中心から支点までの長さ(a)が短いほど、馬の傾きは大きくなります。一方で、クランクの回転中心から支点までの長さ(a)が同じであれば、クランクの回転半径(b)が大きいほど、馬の傾きは大きくなります。

また、馬の上下動の大きさは、クランクの回転半径(b)が大きいほど大きくなります。ですから、馬の動きを設計しようと思ったら、まずは上下動の大きさを決めるために、クランクの回転半径を決めて、次に馬の傾きが危険なほど大きくならないよう、クランクの回転中心から支点までの長さを決めることになります。ただし、実際にはメリーゴーラウンドの屋根の高さが様々な要因から決まってしまう場合も多いと考えられますので、現実的にはaが決められている中で、馬の傾きが危険にならないようbを決定することもあるはずです。

また、bの大きさは、人が乗り降りできる範囲に制限する必要があります。例えば、2階建てのメリーゴーラウンドで、2階の天井から1階の馬へと棒がつながっている場合、aは極めて大きいのですが、bは大きくできないため、馬の傾きは小さくなってしまいます。

2階の屋根から1階の馬へと棒が伸びている場合。馬の前後の傾きが極めて小さくなります。

遊園地では、是非、メリーゴーラウンドの特徴を見極めて、どのような動きをするのか予想してから乗ってみてください。

続いて、ちょっと変わった場合で、棒が天井までつながっていない場合を考えましょう。

問題3 写真のメリーゴーラウンドは、どのような機構で動物が動くでしょうか。また、動きの特徴を予想してみてください。

床下から伸びる棒が、天井までつながっていない場合。この場合は、「押し上げクランク」と呼ばれ、動物の下(床下)にクランクが隠れています。天井を高く取りやすく、開放感があったり、棒でつながっていないように見える不思議な感覚を生み出すことができたり、といった演出面の理由から使われることの多い機構です。

押し上げクランクは、よほどステージに高さを持たせない限り、aが小さくなってしまいます。このため、上下動に対して前後の傾きが大きくなりやすいという傾向があります。これに対して様々な対策が取られる場合があります。例えば、上の写真の西武園ゆうえんちの場合、前後傾斜はせず、上下動のみの設計になっています。このため、ギャロッパーには該当しない機種です。

クランクシャフトの駆動方法

問題4 クランクシャフトはどのようにして回転させているのでしょうか

上のクランクが見えていた画像では、クランクシャフトの右側の端は、何にも接続されていません。ですから、左側の端、メリーゴーラウンドの中央の塔内で回転させていることになります。クランクシャフト自体は、屋根と一緒に動きます。ですから、何か「停止しているもの」を利用して、クランクシャフトを回転させなければなりません。

ここで、ステージを回転させる機構と、停止しているものとの位置関係が重要になります。例えば、図のように、中心に回転する塔体があって、その周囲にクランクを回転させるための、地面に固定されたレールがあるとします。すると、レールを地面に固定するための柱が邪魔で、塔体とステージとをつなぐことができない、ということがわかります。

クランクシャフトを回転させるために、塔体の外側に、地面に固定されたレールを配置すると、レールの支柱が邪魔で、クランクシャフトより下の構造を塔体にくっつけることができず、ステージなどが回転しなくなってしまいます。

そこで、「停止しているもの」は、一般に回転する塔体の内側に、つまり回転の中心部に作られます。その固定部を使ってクランクシャフトを回転させるためには、「かさ歯車」と呼ばれるものを使います。以下の動画がわかりやすいので、ご覧になってみてください。

中心に回転しないかさ歯車があり、塔体と一緒に回転するクランクシャフトは、先端に付けられたかさ歯車が、中央の回転しないかさ歯車とかみ合うことで回転しています。メリーゴーラウンドは、馬の動きを作り出すために、このような複雑な機構を中に持っているのです。

メリーゴーラウンドのデザイン

メリーゴーラウンドという乗り物は、遊園地の中でもひときわファンタジックな雰囲気を醸しています。観覧車やローラーコースターが無骨な、機械的な見た目をしているのに対して、メリーゴーラウンドは極めて装飾的で、かつやわらかで童話的なデザインになっています。

問題5 メリーゴーラウンドは、なぜファンタジーの世界のようなデザインなのでしょうか

当然、ターゲットが「童話の世界の主人公になりたい」子供を対象にしているから、というのもありますが、現代では童話の世界を夢見るこどもというのも少なくなりつつあります。にもかかわらず、新設されるメリーゴーラウンドであっても、多くがファンタジックな外観をしています。

簡単に言えば、メリーゴーラウンドはほとんどが輸入品で、ヨーロッパの古くからあるメーカーから購入するためなのですが、そうしたメーカーがメリーゴーラウンドの定型デザインを使うようになったのにも、当然ながら理由があります。

まず1つは、メリーゴーラウンドが普及した時代です。多くのメリーゴーラウンドが作られ、普及していったのは、1870年代~1920年代にかけて。遊園地の普及とほぼ時を同じくします。デザインも、この時代の流行を反映したものになるわけです。メリーゴーラウンドの装飾をよく見ますと、

ツルのような、曲線的なデザインが多く見られます。これは、ヴィクトリアン様式やアールヌーヴォーなど、同時代に流行したデザインにも、よく見られるものです。電球が多いのも特徴ですが、これはアメリカの都市部で急速な電化が進み、その際に電飾を使った、今で言うイルミネーションが遊園地で流行した際に取り入れられたデザインだと考えられます。

なお、同時代に発展しながら、装飾性のない観覧車やローラーコースターも、少なくとも20世紀初頭までは装飾的なものが多くありました。これらは、大型化するにしたがって装飾コストが上昇し、また、ターゲットが異なることから装飾要素が切り捨てられていったと考えられます。さらに、1920年代になるとアールヌーヴォーに変わって、アールデコが台頭します。特にアメリカのアールデコは、直線を多用した、やや無機質なデザインが特徴的。大型化に合わせて、「機械の時代」を反映したデザインが取り入れられていったことで、装飾性を失っていきます。

もう1つ、メリーゴーラウンドの装飾要素の理由として考えられるのは、そもそものメリーゴーラウンド自体の起源です。例えば、馬を見ると、鞍の下にカパリスンなど、装飾が施されていることがほとんどです。

これは、メリーゴーラウンドが、戦闘儀礼であるカルーセルに由来することが理由だと考えられます。

カルーセルは儀礼ですから、馬にはふさわしい装飾が施されます。そうした背景を反映して、メリーゴーラウンドの馬にも装飾要素が付加されていったと考えられます。

参考文献

[1] “Carousel or Gallopers? What’s the difference?,” https://www.herefordshirelifethroughalens.org.uk/news/carousel-or-gallopers-what-s-the-difference/ 2024年7月4日閲覧

引用方法

引用時は、下記を明記してください。

Yu Shioji, J. Amusement Park (2024) 240023.

利益相反

本稿に関わる利益相反はありません。

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