Author: Yu Shioji (塩地 優)
Article type: Article(研究)
Article number: 250001
遊園地は、19世紀末に米国で誕生して以来、多くの人を惹きつけてきました。エンターテイメントが洗練され、遊園地のコンテンツは主として乗り物とショーに特化、さらに遊園地以外にも多様なエンターテイメントが誕生した現代であっても、多くの人が遊園地を訪れています。このように遊園地が人を惹きつける理由は、ストーリー性のある映画や演劇などのエンターテイメントと比較して、複雑です。ここでは、特に遊園地の乗り物に注目して、人々がなぜ遊園地に魅力を感じるのかを考え、どのようにすれば魅力を増していくことができるのか、という考察につなげていくことにします。
豆汽車の楽しさ
まず、古くは弁慶号などと呼ばれた、汽車型、あるいは鉄道型のライドを題材に、乗り物の楽しさの根源を考えてみることにします。
鉄道ライドは、遊園地にある「楽しさを言語化しにくい」乗り物の代表格です。鉄道という、普段乗車する機会も多い乗り物を遊具化したものですので、乗車感は「普段通り」に近いものです。また、古くは軌道法の影響で、2駅を設けることができなかったこともあり、出発地と到着地が同じ、移動を目的としない乗り物である場合がほとんどです。にもかかわらず、鉄道ライドは多くの人、特に子供を惹きつけてやみません。その魅力の根源を考えます。
まず、要因を洗い出してみます。
- 環境要因
- 遊園地であるという環境
- 楽しむべき場所という認識を生じている
- 景色
- 旅客輸送を目的とした観光路線の方が優れていることも多い
- 遊園地の中を走っているという認識は生じる
- 互いに手を振り合うなど、周囲の人とのかかわりが発生しやすい(楽しむべき場所という認識に由来)
- 家族が周辺で写真を撮影しているなど、「特別な場所」であるという認識を生じさせやすい
- 写真を撮影したくなるのは、車両がオープンであるから、子供が笑顔になりやすいから、などの要因
- 音
- 車両で流れる音楽
- 周辺で流れる音楽
- 楽しい場所であるという感覚を煽る
- スタッフによるアナウンス、あるいは録音された音声
- 注目すべきポイントを示し、指をさして探すなど、探索的効果
- ストーリーがある場合も
- 周辺の乗客が楽しそうにしている声
- 楽しい場所であるという感覚を煽る
- 匂い
- 植栽の花の香り
- リラックスして楽しめる場所であるという感覚を誘起する
- エンジン、あるいは蒸気機関車の場合は、特有のにおい
- 密閉された空間である旅客輸送用車両では感じられない
- 機械が動作する、ワクワクする場所であることを感じさせる
- 植栽の花の香り
- 遊園地であるという環境
- 乗り物に由来する要因
- 振動
- 軌間が狭い、車両が短い、制振機構が無いなどの要因で、旅客輸送用車両の振動とは異なり、軌道由来の振動がダイレクトである
- ワクワクを煽る
- エンジン、あるいは蒸気機関で駆動している場合は、特有の振動
- 車両が短いことが多く、大型の蒸気機関車等と比較して、振動を感じやすい
- ワクワクを煽る
- 車両が短いことが多く、大型の蒸気機関車等と比較して、振動を感じやすい
- 軌間が狭い、車両が短い、制振機構が無いなどの要因で、旅客輸送用車両の振動とは異なり、軌道由来の振動がダイレクトである
- 客車空間の開放性
- 客車は、外気から密閉されていないことが多い
- 視野がクリアである
- 視界が広い
- 外の音・匂いを感じやすい
- 環境要因を感じやすい
- 客車は、外気から密閉されていないことが多い
- 座席配置
- 全て前向きであるか、前後向きであることが多い
- 旅客輸送鉄道でも、有料座席ではよく見られる
- ただし、座席間隔は豆汽車が狭く、背もたれも直立に近い
- 楽しさにつながるのは、視界と視線誘導
- ただし、座席間隔は豆汽車が狭く、背もたれも直立に近い
- 旅客輸送鉄道でも、有料座席ではよく見られる
- 全て前向きであるか、前後向きであることが多い
- 塗装
- 赤などの原色に近い色が多い
- 現代では、現実離れした色合いになっている
- ワクワク感を煽る
- 現代では、現実離れした色合いになっている
- 赤などの原色に近い色が多い
- 機械
- レールを走行する
- 視界がよく線路が見えやすいことも、楽しさを煽る
- 露出した機械部
- 機関車であれば、連棒などの動作が見える
- レールを走行する
- 振動
- アトラクションとしての仕立て方に由来する要因
- 造形
- キャラクターや動物、恐竜などの造形
- 建築物などの造形
- いずれも、ストーリーが付与される場合もある
- 自然を模した造形
- 植栽
- 花、見せるための植栽
- 視界を遮るための植栽
- 造形
この中で、通常の旅客輸送用の鉄道との違いを考えてみましょう。まずは、造形や植栽も含めて、遊園地という楽しい場であることを感じさせる環境要因です。特に子供は、テンションが上がることで、楽しさを増幅させていきます。大人でも、リラックスして汽車に揺られることで、まったりと楽しい気分に浸ることができます。もう1つは、視界の開放性です。機械が動き、線路を走るということ自体にロマンがあり、面白さがあることは、鉄道ファンが多いことからも窺い知れます。その機械の動き、線路の上を走っているということが、旅客輸送用の鉄道では感じにくいのに対して、遊戯施設の鉄道は視界が開放的であるためにわかりやすくなっています。「鉄道に乗っている」という感覚自体が、面白さの根源の1つであると考えられます。
つまり、楽しげな空間で、レールに沿って乗り物が動く、ということ自体に楽しさがあることになります。これは、室内でレール等に沿って動くライドに乗って造形を見て回る、ダークライドにも共通するものです。単に歩いて造形を見て回るファンハウスとの違いは、ライドに乗る、ということ自体にあります。ライドにテーマが付与されていなかったとしても、ライドに乗ってみて回る、ということ自体に面白さを生じるのです。テクニカルには、客の間隔を制御しやすい、回転効率が高いなどのメリットもありますが、そもそもの動き自体に魅力を生じます。
ローラーコースターの面白さ
ローラーコースターも、実は面白さの説明が難しい乗り物です。「Gの変化」という観点では、回転や上下動などを組み合わせた、いわゆるフラットライドでも似たような体験を作り出すことができます。にもかかわらず、ローラーコースターは遊園地がこの世に誕生して以来、常に遊園地の花形であり続けています。また、鉄道としてみれば、やはり全く移動をしない、元の場所に戻ってくる乗り物です。ローラーコースターのように上下動と、直線やカーブを含む移動を組み合わせたものに、ウォータースライダーや、スーパースライダーと呼ばれる車輪付きのソリなどがありますが、やはりそれらが同じパーク内にあったとして、1日に乗車する人数でいえばローラーコースターが圧倒的です。
大規模なテーマパークで、お金のかかったダークライドを設置しているようなところでも、例えばユニバーサル・スタジオ・ジャパンのハリウッド・ドリーム・ザ・ライドやザ・フライング・ダイナソーのように、普通のローラーコースターの方が待ち時間が長い、といった現象が発生するほど、色あせない魅力を有します。
歴史的には、ローラーコースターは造形を重視した時代もありましたが、現代では鉄骨の骨組みとレールからなる、乗り物としての面白さに特化したコースターが大勢を占めています。そこで、造形は考慮しないことにします。また、ここでは遊園地内の乗り物間で面白さを比較しますので、環境要因も置いておきます。特殊なコースターも考えないことにして、一般的なコースターのみに着目します。そのうえで、上記で取り除いた要因以外の要因を洗い出してみましょう。一部、仮説も混じっています。
- コースターの動きによる要因(Gの変化以外は、後の項目と重複しますが、わかりやすさのために二重に記載します)
- Gの変化
- 鉛直上向きのG(浮遊感)
- 「胃が浮き上がるような」スリルにつながる
- 人によって、危険を感じる値がある
- 鉛直上向きのGの変化率
- 「放り出されるような」スリルにつながる
- 人によって、危険を感じる値がある
- 鉛直下向きのG
- 押さえつけられるような感覚
- 人によって、値が大きく長時間に及ぶと、ブラックアウトに近い現象を生じる
- 鉛直下向きのGの変化率
- 大きいと、ガタンと押さえつけられるような感覚で、不快感につながりやすい
- 大きすぎると、身体損傷につながる恐れ
- 横向きのG
- 振り回されるようなスリルにつながる
- 人によって、危険を感じる値がある
- 横向きのGの変化率
- 横に放り出されるようなスリルにつながる
- 人によって、危険を感じる値がある
- 前向きのG
- 減速、一般にはブレーキで感じる
- 前向きのGの変化率
- 大きいと急ブレーキ
- 大きすぎると、身体損傷につながる恐れ
- 後ろ向きのG
- 加速、一般にはLSMなどの加速エレメントで感じる
- 人によって、危険を感じる値がある
- 後ろ向きのGの変化率
- 高いと急発進
- 人によって、危険を感じる値がある
- 鉛直上向きのG(浮遊感)
- 速度
- 前方の速度
- 視覚や風、音、振動で感じる
- 人によって、危険を感じる値がある
- 慣れによって危険を感じなくなる
- 一般に、爽快感に寄与する
- 目の乾きや髪型の変化など、乗車後の余韻につながる事象を生じる
- 後方の速度
- 視覚や風、音、振動で感じる
- 人によって、危険を感じる値があり、前方速度より臨界値が小さい
- 側方の速度
- ロールのような動きによって発生する
- 主として重力の向きの変化によって感じる
- 人によって、危険を感じる値があり、前方・後方速度より臨界値が小さい
- 前方の速度
- 振動
- 上下方向の振動
- 関節による吸収が難しいため、一般に不快さを生じやすい
- 振動の大きさによって、身体の損傷につながりやすい
- 左右方向の振動
- 身体拘束が強くない場合、車両から放り出されるような不安を生じる
- 身体拘束が強い場合、ハーネスに頭部をぶつけるなどの不快感を生じる
- 前後方向の振動
- 頭部をシートにぶつけやすいため、一般に不快さを生じやすい
- 振動の大きさによって、身体の損傷につながりやすい
- 上下方向の振動
- Gの変化
- 視覚的要因
- 高さ
- 人によって、危険を感じる値がある
- 高さの変化
- 落下するスリル、恐怖をあおる
- 上下反転など、特殊な車両姿勢
- 日常からの逸脱による不安をあおる
- 次の動きがレールでわかる
- 落下前の心理的負荷など、主として不安をあおる
- 人によってワクワク感をあおる
- 次の動きに対して身構えるため、衝撃や振動、荷重変化を和らげる方向に働く
- レールが見えない/レールから次の動きがわからない
- 荷重の変化に対して心理的準備、身体的準備ができないため、荷重変化を強調する方向に働く
- 何が起きるかわからない不安をあおる
- 座席の開放感
- 特に足元の不安感をあおる
- 人によって、爽快感に寄与する
- 景色の変化
- 実空間上で座標が大きく変化することによる、ダイナミックな景色の変化
- 主として爽快感に寄与する
- 近くに物体がある場合は、衝突の不安をあおる
- 高さ
- 聴覚的要因
- アンチロールバック
- 不安をあおる
- 巻き上げ機械音
- 不安をあおる
- 走行音
- 速度を感じさせる
- 風切り音
- 速度を感じさせる
- 他の乗客の叫び声
- 不安をあおる
- 人によって爽快感に寄与する
- 場合によっては不快感につながる
- アンチロールバック
- 触覚的要因
- 外観
- スケール感が不安、爽快感をあおる
- 身体拘束
- ハーネスに押さえられることで、脱出できない不安をあおる
- 場合によって、圧迫感や痛みを感じる
- 振動が大きい場合、身体をハーネスにぶつけて痛み、不快感につながる
- 高さ
- 人によって危険を感じる値がある
- 振動
- 速度を感じさせる
- 場合によって、ハーネスに身体をぶつけるきっかけとなる
- 風
- 主として顔に圧力を感じ、速度を感じさせる
- 目の乾き、髪型の変化など、乗車後の余韻につながる
- 外観
- 乗客の主体的行動に由来する要因
- 発声する
- 爽快感に寄与する
- 同行者と会話する
- 感情の共有により感情を増幅、反芻させる
- 発声する
こうしてみると、ローラーコースターの魅力には、複数の要因が複雑に絡んでいることがわかります。例えば、ファーストドロップにおいては、単に落下するだけではなく、水平前方軸の速度、座席の傾斜の変化が組み合わさり、荷重変化に加えて、視覚、聴覚、触覚に訴えかけることで楽しさを生み出しています。厳密には、フラットライドのようなシンプルな機械動作では難しい、レールでなければ実現できない複雑な動作をしています。また、同一の動きを2度はしない、景色が大きく変化するという、レール上を走行する乗り物特有の、体験のバリエーションの豊かさも、楽しさに寄与していると考えられます。加えて、他の乗り物にはない、水平垂直のいずれにも巨大なスケール感が乗車感に影響を与えていることも考えられます。
このような体験は、コアを凝縮したコンパクトなコースターにまとめることはできても、機械動作の組み合わせであるフラットライドでは実現できないことがわかります。また、加速度と視覚と、触覚の一部しか制御ができないシミュレータによっても再現が難しい領域です。心理的負荷である不安や恐怖と、ワクワク感や爽快感が入り交じり、緊張と開放が日常ではありえない振幅で押し寄せることによって、楽しさを創出しています。
また、鉄道の項でも述べたように、そもそも車輪で走行すること自体に多くの人がロマンを感じます。これに加えて、滑り台を台車に乗って滑ることをイメージするとわかるように、速度への欲求や、日常的に目にする「坂」というものを高速で駆け下りたいという欲求に応えているのがローラーコースターです。「名機」と呼ばれる、長く愛されるローラーコースターは、心理的負荷よりも爽快感や、荷重変化に重きを置いたコースターが多いのも事実です。心理的負荷は、あくまで爽快感を引き立てるためのものであって、魅力の本質は荷重変化や速度によるポジティブな感情であると考えられます。
これを安価に実現しようと考えたときに、例えばジップラインは身体的な不安定感を強調するなど、一部でローラーコースターの要素を増幅している部分があります。一方で、Gの変化やコースのバリエーションなどに大きな制約がかかっているため、単純に置き換えができるものではありませんし、感情の振れ幅もローラーコースターほど大きくならないと考えられます。バンジージャンプなども同様で、それぞれに特有の魅力はあるものの、ローラーコースターの代替として考えると、少ない客数の施設で代替するためのスケールダウン策になってしまっていると考えられます。
結論
今後、かつては映画や演劇、音楽ライブが担っていたような、視覚と聴覚、脳に訴えかけるエンターテイメントの進化版として、イマーシブと呼ばれる空間や物語への没入感を伴う演出が拡大していくことは間違いありません。また、ライドアトラクションにもそうした要素が取り入れられることで、特に聴覚や脳への刺激が得意とする領域と、荷重変化や移動が得意とする領域の境界があいまいになっていくであろうことも予想されます。
一方で、これまで見てきたように、遊園地の乗り物には古典的ながらも色あせない魅力があって、その楽しさの絶対値が経時によって変化する状況には無いと思われます。一方で、イマーシブの発展に伴って、エンターテイメントの刺激が全体的に高まる状態にあるため、遊園地の乗り物も楽しさに磨きをかける、あるいは刺激を複合化していかなければ、相対的な楽しさで埋没してしまう恐れがあります。
ただし、単にイマーシブ、特に空間没入系体験で良く用いられる、高輝度の電飾やモニター類をライドアトラクションに取り入れることには、課題があります。これらはコストがかかるのに対して、ライドアトラクションは通過時間が短く、コストと体験のバランスが悪いのです。他方で、乗り物本来の魅力を突き詰めようにも、既にローラーコースターは単純なアップダウンによるポジティブな感情を追求する方向性は既に限界に達し、シンプルなタイプはファミリー向けのコースターへ、大型タイプは落下直前の停止(B&M製ダイブコースター)や、落下前にレールが傾く(Vekoma製チルトコースター)など、心理的負荷をアクセントに用いる方向へと流行が変化しています。王道の方向性では、大きな進化が見込めないのが現状です。
したがって、無理に先進的な手法や過激な手法を既存ライドに取り込む形にするのではなく、相対的な埋没とエンターテイメントの多様化は受け入れつつ、先進的な手法はライドアトラクションとは別に取り入れていくべきだと考えます。また、大きな進化は見込めないものの、ローラーコースターであれば、特に心理的負荷に関しては発展の余地があるため、こうした小さな進歩を積み重ねることで、相対的な埋没に可能な限り抗っていく、という方向性にならざるを得ません。遊園地はあくまで、様々なエンターテイメントの複合によって魅力を発揮する施設です。歴史的に見ても、遊園地は先進的なエンターテイメントを取り込みつつ、結果として定番ライドアトラクションの魅力は色あせることなく、生き残ってきました。今後も、相対的な埋没はあり得ても、ライドアトラクションにはここまで見てきたように本質的な魅力があることから、遊園地の花形であることに変わりはなく、結果として遊園地が楽しい施設であることにも変わりはないと考えられます。
引用方法
引用時は、下記を明記してください。
Yu Shioji, J. Amusement Park (2025) 250001.
利益相反
本稿に関わる利益相反はありません。
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