ローラーコースターの車輪ユニットの類型2 – 機能による分類

Author: Yu Shioji (塩地 優) 
Article type: Article (研究) 
Article number: 230014

前回の記事では、車輪ユニットの数や車輪の数によってローラーコースターの分類を行いました。

今回は、車輪ユニットが備える機能によって分類を行っていきます。

なお、図や参考文献は前回の記事から連番になっています。一部、前回の記事の図を参照している部分が御座いますので、ご注意ください。

 

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側輪・底輪の可動軸による分類

ボギー軸のないタイプの台車では、カーブでは側輪間の距離を変えなければなりません。

このため、側輪には可動軸を設けるのが一般的です。

また、主輪と底輪の間の距離は、ごくわずかではありますが、アップダウンのカーブによって変化します。これを吸収するために、上述の通りレールと底輪の間に遊びを設けるか、可動軸を設けることがあります。

ここでは、これらの可動軸の処理について分類していきます。

 

側輪にバネまたはダンパーを用いた可動軸がある場合

ここでいうダンパーというのは、ゴムダンパーのことで、事実上バネと同じような使われ方をしています。ただし、変位-荷重曲線にヒステリシスを生じますので、振動を抑制する効果があります[4]。自動車でいうところの「ブッシュ」に近い存在で、びりびりとした高周波の振動を吸収する効果があります[5]。ローラーコースターは、主輪については重力によって強く押し付けられていますが、側輪はそうではありません。このため、横方向の振動は縦方向の振動と比べて発生しやすいのです。このことから、側輪には振動吸収の役割も担わせる必要があります。

バネ単体では、可動軸を設けることはできるものの、ローラーコースターで発生するタイプの振動を吸収する効果はないため、主にゴムダンパーが用いられます。バネを単独で用いているのは、例えばシュワルツコフ社[2]など、比較的古い時代のメーカーです。

バネやダンパーは、ボギー軸のない台車で広く用いられている形式です。ボギー軸がある場合には、側輪を可動させることに意味がないため、用いられることは極めて稀です。

図4の高飛車の例を見ますと、側輪の間に、外向きに飛び出したボルトが見えます。これが可動軸だと考えられます。このボルトの奥行方向に、主輪のベースと側輪のベースが連なっていて、その間にダンパーが挟まっていると考えられます。このように2本の可動軸を設けますと、側輪は2輪が全く同じ動きをするよう制約されてしまいますので、かなり変わった設計です。設計上は斜め動作は無きに等しいのですが、わずかなズレが振動につながる恐れもあります。ダンパーがわずかな斜め動作を許容できる設計になっているのかもしれません。ボルトが飛び出しているのは、ボルトの締め付け具合によって、側輪の押し付け圧を規定しているためだと思われます。

Cedar PointのMaverickのライド

図12 側輪間に大きなゴム板が見える。写真はCedar PointのMaverick.

図12のように、2つの側輪が独立に動けるような回転軸を設けて、その動きをゴム板で抑制する形が一般的です。図12はインタミン社のものですが、B&M社、Zamperla社, MackRides社など、採用例が多くあります。

 

側輪にバネとダンパーを共に用いた可動軸がある場合

前項ではバネまたはダンパーのいずれかがある場合を議論しましたが、ここではその両者を備えている場合を考えます。2つの可動機構を備える方法には、2通りあります。直列につなぐ場合と、並列につなぐ場合です。

直列につなぐ場合というのは、ダンパーのみを用いる場合と比べて、ダンパー自身にかかる力はほぼ変わらないため、それほど特性の変化がありません。どちらかというと、バネで低周波側の振動を吸収しようという思想だと思われます。例えば、図13のS&S社製コースターの場合には、このタイプのバネ‐ダンパー直列形式が使われ始めたのは、圧縮空気タイプのローンチコースターからでした。圧縮空気タイプというのは、富士急ハイランドのド・ドドンパと同じ形式で、強烈な加速度が持ち味です。ただし、ド・ドドンパの車輪が小型飛行機に使われるようなゴムタイヤなのに対して、バネ-ダンパー直列が用いられたのは、通常のローラーコースターと同じナイロンまたはウレタン系の車輪です。リニア加速ではなく、プッシャーで押す形で強烈な加速をするコースターでは、加速中に左右に振れるような動きが発生します。これを吸収するために、ダンパーだけでなく直列に配置されるバネを採用したのではないかと考えられます。

KennywoodのSteel Curtainの車輪ユニット

図13 側輪の可動部にバネとダンパーを直列に配置している例。写真はKennywoodのSteel Curtain。

図13はローンチコースターではなく、通常の巻き上げタイプですが、これもおそらく高速域・激しいループエレメント等での乗車感向上を狙ったものだと思われます。筆者が乗車した際の感想メモには、「見た目の激しさに反して、とにかく気持ちの良い、スムーズな乗り味」とあります。また、2019年のGolden Ticket Award for Best New Roller Coasterも受賞していることからも、乗車感向上に向けたこの取り組みの成果が垣間見えます。

バネとダンパーを並列に配置する場合は、ダンパーに、車輪をレールに押し付ける能力を与える必要がないため、ダンパーのみの場合やバネと直列配置の場合と比べて、ダンパーを柔らかく、振動を吸収しやすくすることができます。特に、ダンパーのみの場合と比べると、やや低い周波数の揺れまで吸収できます。図11の例では、バネではなくダンパーですが、大きなダンパーと、小さなダンパーとが並列につながれていることがわかります(別角度の写真を図14に掲載)。小さなダンパーはボルトによって押し付け圧が調整されています。これは、大きなダンパーと小さなダンパーのヘタリ方に差が出ることを踏まえて、調整機構を残していると思われます。

Kennywood SkyRocketの車輪ユニット

図14 側輪の可動軸を制御するために、大きなダンパーと小さなダンパーが並列に接続されていることがわかります。写真はKennywoodのSky Rocket.

これは2000年代中盤以降のPremier rides社製コースターに、ほぼもれなく搭載されている機構です。筆者がSky Rocket(I)に乗車した際のメモを見ると、「極めてスムーズな乗車感。なめらかで気持ちが良い」とあります。振動の抑制がうまくいっていることがわかります。

 

車輪ユニット自体が外側に傾く機構を持つ場合

車両一両あたりの重量が増えてくると、ダンパーも同じ力がかかった時の変形量は小さくしていかないといけません。このためには、ダンパーの材料自体を変形しにくいものに変えるか、あるいはダンパーと車輪を支える部分との接触面積を増やすしかありません。が、チューブ状のレールを使っている以上、この接触面積のうち縦幅はレール径を超えることが難しい、という制約があります(かなり特殊な設計をすれば不可能ではありませんが)。こうした事情を受けて、1両あたりの乗車人数が多い場合には、側輪部分で側輪間距離を調整するのではない、別の方法を取ることがあります。

例えば図15では、車輪ユニット自身に可動軸があって、車輪ユニット全体が側輪間距離を広げる方向に動きます。車輪ユニットの根元は、スペースに自由度がありますので、ダンパーの設置スペースにも余裕ができます。これを利用しているものと考えられます。図15のコースターは、Bolliger and Mabillard(B&M)社のダイブコースターというタイプです。ファーストドロップの直前で停止し、ゆっくり落下に差し掛かって、一気に落ちるという、視覚効果を重視したコースターですので、できるだけ車両を短くしたいというニーズがあります。このため、横幅が極めて広いのです。このシリーズにはNarrowと呼ばれるタイプとWideと呼ばれるタイプがあって、Narrowは横7人まで、Wideは横8人以上です。Narrowは側輪横にダンパーがあって、Wideは車輪ユニット自体が外側に傾く機構になっています。このことからも、車両重量に依存して設計を変更していることがわかります。

Cedar Point Valravnの車輪ユニット

図15 側輪は車輪ユニットに対する可動軸が無く、車輪ユニット自体が外側に可動の場合。写真はCedar PointのValravn.

 

底輪にバネまたはダンパーを用いた可動軸がある場合

前述の通り、主輪は重力によって強くレールに押さえつけられていますから、振動の発生源にはなりません。むしろ、レールのガタや剛性、車輪の歪みや車両剛性などに由来する部分が大きいのです。したがいまして、振動吸収を目的として底輪をレールに押し付ける必要はありません。レールに接する車輪が増えることは、走行抵抗の増加につながりますので、基本戦略は、底輪はレールから離しておくことです。

しかしながら、ゼロG(無重力)に近い状態や、あるいはマイナスG(車両や身体が浮き上がる方向に力がかかる)を生じる場合には、レールと底輪との間に隙間があると、プラスGからゼロGやマイナスGへの移り変わりのタイミングで、車両がガタンと浮き上がってしまうことがあります。これを防ぐ方法は2通りです。

1つは、Gの移り変わりを滑らかにすること。つまり、レールの上下方向のカーブを滑らかにしておくことです。例えば図13のS&S社製コースターは、この図からもわかる通り、通常は主輪は回転しているものの、底輪は回転していません。つまり、底輪はレールから離れているのです。このコースターには一ヶ所だけマイナスGを生じるエアタイムがありますが、そこでは走行音が変化します。つまり、主輪がレールから離れ、底輪で走行しています。にもかかわらず、大きな衝撃はありません。カーブの精密さによって衝撃を回避しているのです。また、写真をよく見ますと、主輪とそれ以外で色が少し違います。底輪にはやわらかめの材料を用いて、衝撃を吸収している可能性があります。

もう1つは、底輪に可動軸を設けることです。図12, 14, 15はいずれも可動軸があります。

同じメーカーで使い分けている場合は、ループがある場合には可動軸を設けて、ループが無い場合には可動軸を設けないことが多いようですが、上記のようにS&S社はループエレメントが多くても可動軸を設けていないタイプがありますし、一概には言えません。

 

車輪ユニットの機構による分類

車輪ユニットには、車輪を備えるだけでなく、いくつかの機能が付与されている場合があります。ここではその機能をもたらす機構によって分類をしてみます。

左右の車輪ユニット間に4節リンクを備える場合

4節リンクというのは、ボギー軸のない台車において、左右の車輪ユニットの水平回転を連携させるためのものです。自動車などで広く採用されています。詳しくは、アッカーマン・ジャントー機構についての解説をご覧ください[6]。

自動車であれば、左右の車輪を連動させて回転させなければなりませんので、こうした機構は必須です。ローラーコースターは左右の車輪ユニットが独立して回転することに問題がありませんので、4節リンクは必ずしも必要ではありません。あえて4節リンクを用いるのは、左右の車輪ユニットの水平回転を連携させる必要がある場合です。

どういうことかと言いますと、片方の車輪ユニットが左右に揺れるとき、4節リンクでもう一方の車輪ユニットに接続されていると、揺れていないほうの車輪ユニットの重量や、車輪の押し付け圧によって振動が抑制されます。つまり、振動の抑制を目的としているのです。

これはメンテナンス時くらいにしか、その全体像を見ることができませんので、採用例の傾向までは判断がつきません。全体の写真は例えば、RCDBのBullet Coasterの項目(2023年7月現在74枚目、78枚目の写真)[7]をご覧ください。Bullet CoasterはS&S社の圧縮空気ローンチタイプですので、急加速時に左右に振れるのを防ぐためだと思われますが、同じ車輪ユニットを採用している図13のSteel Curtainにも採用されています(図16)。

KennywoodのSteel Curtainの4節リンク

図16 赤い四角で囲った場所に、4節リンクのタイロッドが見えます。写真はKennywoodのSteel Curtain.

 

車輪にカバーが付いている場合

レアなケースではありますが、車輪にカバーが付いている場合があります。古くはシュワルツコフ社のコースター、日本ではナガシマスパーランドのルーピングスターの車輪ユニットは、ほぼすべてがカバーで覆われています。また、B&M社の一部機種、例えば図15のダイブコースターにも主輪に部分的なカバーが装着されています。

シュワルツコフのようにフルカバーのタイプは、デザイン性、異物噛みこみの防止などの効果もあると思われますが、B&M社の例は主輪を部分的にしか覆っていませんので、そのいずれの機能も果たしていません。どちらかというと、空気抵抗の低減を狙っていると考えられます。

 

アースベルトを装着している場合

図12の最後部をご覧ください。車輪の後ろに、レールに垂れ下がっているゴムがありますよね。昔のトラックなんかによくついていた、アースベルトです。

ただ、これは極めてレアなケースです。実は、同じIntamin社のLSMローンチ系コースターでも、装着しているのは図12のCedar PointのMaverickだけなのです。周辺に高い建物が無く、避雷針もないために、落雷時に電流をレールに流すために装着されていると考えられます。

 

以上より、例えばボギー軸無し、1両あたり車輪ユニットが2つ、4節リンクあり、と言えば、比較的タイトなカーブを含むコースレイアウトで、かつ振動に気を使った、乗り心地を重視したタイプのコースターであることがわかります。

このように、車両の足回りを見るだけで、比較的容易にローラーコースターの設計思想を詳らかにすることができるのです。

 

参考文献

[2] Schwarzkopf Coaster Net https://www.schwarzkopf-coaster.net/achterbahnen-detail-wagen-GF.htm (2023/07/09閲覧)

[3] Roller Coaster Database, “Merlin’s Mayhem,” https://rcdb.com/14395.htm#p=93242 (2023/07/09閲覧)

[4] ダンパー講座 http://a011w.broada.jp/cantalwaysget/D_course/pages/d-73.html (2023/07/09閲覧)

[5] Honda 「いいサスって何?ダブルウイッシュボーンがいいの?トーションビームはダメなの?Vol.2「振動吸収」の深い世界」https://www.honda.co.jp/sportscar/mechanism/suspension02/(2023/07/09閲覧)

[6] Wikipedia 「アッカーマン・ジャントー」https://ja.wikipedia.org/wiki/アッカーマン・ジャントー(2023/07/09閲覧)

 

引用方法

引用時は、下記を明記してください。

Yu Shioji, J. Amusement Park (2023) 230014.

 

利益相反

本稿に関わる利益相反はありません。

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