Author: Yu Shioji (塩地 優)
Article type: Article(研究)
Article number: 250002
遊園地に設置されるライドアトラクションは、その多くが建築基準法による規制を受けます。日本は地震多発地域であること、台風などの風雨による災害があること、さらに多量の雪が降る世界有数の豪雪地帯があることもあって、多方面で厳しい規制が課されています。その結果として、日本国内ではアトラクションの設置方法が、他国とは大きく異なる場合があります。ここでは、ローラーコースター、特に海外製の小型コースターの設置方法を見ることで、海外との違いや、日本の遊園地・遊戯施設輸入代理店の苦悩に迫るとともに、事例の類型化を行います。
大型コースターの設置方法と大型コースターの定義
大型コースターの設置方法は、国内でも海外でも大きな違いはありません。支柱の数や太さが変更になるなどの影響が発生する場合はありますが、支柱の設置方法は、ほとんどすべてがコンクリートのベースを地中に埋め込み、そこにアンカー固定するという方法です。大型コースターの場合は、極めて大きな荷重を支柱が受け止めることに加えて、レールのわずかな歪みが乗車感に影響を及ぼし、場合によっては走行不能になったり事故に至ったりします。このため、地震の有無等にかかわらず、国による設置方法の違いはほとんどありません。また、支柱はローラーコースターの走行に伴って劣化し、交換することが前提となりますので、支柱ごと地中に埋めるような施工方法も少なく、ほぼすべてがアンカー固定となっています。
「大型」の定義はどこからか、というのが問題になりますが、メーカー側が判断をする1つの基準は、「移動遊園地で使うかどうか」です。移動遊園地で使うコースターであれば、アンカー固定をしなくて良い設計になりますし、そうでない場合にはアンカー固定を前提としても良い、ということになります。ローラーコースターの建設コストからすれば、アンカー固定は高い金額ではありませんし、後述するように設計の自由度が高まります。一方、移動遊園地で使う場合には、アンカー固定を前提とすると、原状回復も含めて費用負担が重くのしかかってしまいます。このため、機種によってはアンカー固定を前提とした「固定」バージョンと、アンカー固定を前提としない「モバイル」バージョンの2種類を用意することもあります。
ですから、支柱の固定方法から考えた大型コースターの定義というのは、同じ型のコースター全てがアンカー固定を前提としているもの、ということになります。この考え方では、Olympia Loopingという垂直ループ5個を含む全長1,200m超の大きなコースターであっても、「大型ではない」という分類になってしまいますが、本稿では便宜上、この分類を採用することとします。
日本のローラーコースターの定義
ローラーコースターの定義には、様々な解釈がありますが、ここでは建築基準法施行令の定義と、「遊戯施設技術基準の解説」[1]による解釈に従うこととします。
ローラーコースターのようなものの定義
まず、「ローラーコースターのようなもの」を定義しておきましょう。建築基準法施行令第138条2項二によると、「ウォーターシュート、コースターその他これらに類する高架の遊戯施設」は建築基準法の定める工作物に該当する、とあります。遊戯施設技術基準の解説は、これを「ウォーターシュート、コースターその他これらに類する高架の遊戯施設とは、軌条を直接又は路盤その他これに類するものにより地盤に結合していないものをいい」と解釈しています。「路盤その他これに類するもの」というのは、アスファルト舗装やコンクリートなどのことです。「軌条を直接」というのは、枕木を間に挟んだ結合も含みます。ですから、一般的な鉄道ライドは建築基準法上の工作物、ここでいう「ローラーコースターのようなもの」には該当しません。この、建築基準法上の工作物に該当した時点で、基礎を打ち、基礎に締結する必要を生じます。
一方で、一見、鉄道ライドのように見えて、「ローラーコースターのようなもの」に分類されてしまうものもあります。例えば、下の写真をご覧ください。
よく見ると、ローラーコースターのような鋼管レールが、H形鋼を介して路盤に結合されています。このため、上記解釈に従えば、これは「ローラーコースターのようなもの」、「高架の遊戯施設」に該当してしまいます。ただし、その判断は各自治体の建築主事にゆだねられているため、実務上は都度確認が必要です。過去には、小型のバイキングなど、一般的な解釈では建築基準法の定める工作物に該当すると思われる乗り物が、該当しないと判断された事例もあります。
逆に、案内軌条などが路盤上に置かれているだけの乗り物は、建築基準法の定める工作物には該当しません。このため、下の写真のように、枕木の下にゴム板を置くだけなど、比較的簡単な設置方法をとる場合があります。
これに該当するのは、鉄道ライドやダークライド、ゴーカートなどです。ただし、レールにかかる負荷やメンテナンス性、安全性などの観点から、路盤に締結することを選択する遊園地もあります。
ローラーコースターの定義
ローラーコースターの定義は、平成12年建設省告示第1419号から読み取ることができます。そのうち、支柱などにかかる力の計算方法を示した第4の2項一に、「別表第1の遊戯施設の種類に応じて」とあります。別表第1では、軌道を走行する乗り物を、勾配が5度未満のものと、それ以外のものに分けています。「遊戯施設技術基準の解説」は、このうち勾配が5度未満以外のものを、「コースター、マッドマウス」と表現しています。ですから、ローラーコースターの定義は、「軌条を直接又は路盤その他これに類するものにより地盤に結合していないものであって、最大勾配が5度以上のもの」と考えることができます。
ここで、ローラーコースターはすべて建築基準法上の工作物に該当しますので、すべて基礎打ちと基礎への締結が必要になります。これは、地上からの高さなどの例外はありません。どんなに低い場所でも、必ず基礎を打って、基礎に締結する必要があります。
この定義によれば、「重力に従って走行しているかどうか」は判断基準ではありません。モーター駆動の、いわゆるパワードコースターであっても、ブレーキをかけながら急こう配をゆっくりと下る高架施設であっても、コースターに該当します。ただし、これ以上の分類は、非常に細かくわかりにくい定義になってしまうため、わかりやすい定義としてはよくできていると考えます。
アンカー固定しないローラーコースターの設置方法
では、海外でアンカー固定しないローラーコースターは、どのように設置されているのでしょうか。
まずは、以下の画像をご覧ください。
支柱同士が鉄骨でつながれていて、その鉄骨は地面の上に、木材で高さを調整し、荷重分散しただけで、そのまま置かれています。これが基本的な設置方法です。地面にはそのまま置くだけで設置できますので、基礎打ちのコストを避けることができます。特に移動遊園地では必須の形態です。
支柱下部に負荷がかかると、支柱が動いてしまい、その結果としてレールの歪みなどにつながる恐れがあるため、支柱同士は鉄骨で締結する必要があります。したがって、基本的には碁盤の目状に支柱を配置する必要があります。これが、支柱をアンカー固定しない場合の、最大の設計制約要因です。また、当然ながら移動遊園地への設置も前提としますので、縦横の比率が大きくなりすぎない、四角い敷地に設置できる必要もあります。
支柱配置の制約は、様々な工夫によって、回避されることもあります。その代表例が、放射状に鉄骨をつなぐ方法です。
これによって、ヘリックスと呼ばれるらせん状のコースレイアウトも実現できるようになります。他にも、垂直ループを設置する場合は、剛性を上げるために巨大で部厚い鉄板を組み合わせたベースプレートを用いるなど、各種の工夫によって、コースターを地面に固定せずとも安定して運行ができるようになっています。
日本における海外製小型コースター設置の工夫
それでは、本題の日本における設置例を見ていきましょう。
まずは、シンプルな例です。
この例では、支柱間をつなぐ鉄骨を、そのままコンクリートに締結しています。このコースターは建物の屋上に設置されているので、建物と接合しているコンクリートの土台を用意して、そこに締結する形になっています。また、このコースターはもともと、近接する支柱間のみを鉄骨でつなぐことで、十分な強度を得ていることも特筆に値します。3本の鋼管を組み合わせた強度の高いレールと、一定区間ごとに2本の支柱を、断面が三角形になるように出す構造で安定させています。
続いて、少し特殊な例です。
鉄骨が無いと構造的に成立しないコースターのため、鉄骨は残しつつ、支柱を路盤に締結しています。もともと、デコボコした土地への対応からか、支柱ごとに足をつけるような形で設置するコースターのため、このような締結方法になっていると思われます。基礎を打つ場合、足の数が多いことから余計なコストがかかります。このメーカーは、後に支柱が少ない、固定設置用バージョンも発売しています。
続いても鉄骨を残すパターンながら、変則的な設置方法です。
ベースの鉄骨自体はそのまま残っていますが、その鉄骨の下に支柱を置いて、鉄骨の枠組みを浮かせる設置方法となっています。これは、鉄骨が無いと成立しないコースターを、傾斜地に設置するための工夫です。海外であれば、傾斜地であっても木の板を複数枚重ねて、傾斜を補正して地面の上に置いてしまいますが、日本では固定が必要なために、このような変則的な施工になったと思われます。傾斜地の整地には多額の費用がかかるため、安価に設置するための工夫だと考えられます。また、鉄骨の枠組みの上には木の板が隙間なく置かれて、ウッドデッキのようになっています。ウッドデッキは、稼働開始後に追加されたものです。このコースターは、古典的な8の字レイアウトながら、支柱がきれいに碁盤の目状に配置されているのが特徴です。
続いて、鉄骨が無くなっているタイプです。
実はこれは、遊園地や代理店が鉄骨を取り除いたわけではなく、メーカーによるバージョン違いです。このコースターは世界的にも有数のベストセラー機で、年台や設置場所によって、様々なバージョンがあります。国内でも、無数の鉄骨があるリナワールドのエンジェルコースター、鉄骨はないものの全体に剛性が低い構成の手取フィッシュランドのドラゴンコースター、剛性が高い構成の城島高原パークのドラゴンコースターがあります。なお、最新の構造は城島高原パークのタイプです。
以上より、海外製モバイルコースターの設置方法としては、以下の4パターンが考えられます。
- 鉄骨を基礎に締結する
- 支柱を基礎に締結する
- 鉄骨の下に支柱を追加して、追加した支柱を基礎に締結する
- 鉄骨を取り除く改造を施して、支柱を基礎に締結する
これらに取り立てて優劣はありませんが、
- メーカーが省支柱の固定タイプを販売している場合は、それを採用する
- 傾斜地でなければ、購入したものを直接基礎に締結する
- 傾斜地の場合は、鉄骨の下に支柱を立てて強度が担保されるか検討する
といった順序で判断していくことになると思われます。
参考文献
[1] 「遊戯施設技術基準の解説」日本建築設備・昇降機センター、日本アミューズメントマシン協会編、昭和51年6月22日初版、平成30年3月15日第30版 (官報販売所から入手可能)
引用方法
引用時は、下記を明記してください。
Yu Shioji, J. Amusement Park (2025) 250002.
利益相反
本稿に関わる利益相反はありません。
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