「ジャングリア沖縄」見落とされがちな失敗因子#6 周辺観光施設への影響

Author: Yu Shioji (塩地 優)
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Article type:
Outreach(解説)
Article number: 2500011

2025年7月、沖縄に新たなテーマパーク「ジャングリア沖縄」がオープンする。P&Gで培った、数学的なマーケティングのスキルを活用して、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを経営危機から救い、V字回復。万年赤字だったグリーンピア三木をネスタリゾート神戸に転換して黒字化、西武園ゆうえんちのリニューアルを行って集客増、お台場にイマーシブ・フォート東京を開業など、テーマパークに関わる様々な実績で知られる森岡毅氏が率いる株式会社刀。その刀が、長年温めていた沖縄テーマパーク事業を、ついに具現化する。実績を見ると、失敗の要素が無い事業のようにも思えるが、本当なのだろうか。落とし穴はないのか、地元の懸念なども踏まえてみていこう。

第5回は、交通渋滞の懸念を考えた。第6回の今回は、ジャングリア開業が周辺の観光施設や、飲食施設にもたらす影響を考える。

この解説は、一般誌寄稿用原稿に、大幅に加筆修正したものです。文体が通常と異なること、正確性よりわかりやすさを重視していることをご了承ください。

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現在の観光のモデルコース

ジャングリア沖縄は、沖縄北部、名護市と隣接する今帰仁村にある。この地域がある、本部半島へ訪れる観光客の主目的は、美ら海水族館だ。美ら海水族館は、年間350万人の入館者を誇る沖縄有数の観光地で、かつ日本一の水族館でもある。

美ら海水族館の滞在時間は、1.5時間~2時間ほどだ。観光客の多くが滞在する那覇からは車で2時間、リゾートホテルが多くある恩納村からは車で1時間程度の位置にある。これだけの時間をかけて本部半島まで移動するからには、美ら海水族館以外にも「ついでにどこかに寄りたい」というニーズが発生する。

従来、その受け皿となっていたのは、車で行ける古宇利島、フェリーで行く伊江島、あるいは世界遺産の一角をなす今帰仁城、よりライトな立ち寄り層を受け入れるナゴパイナップルパークやお菓子御殿の大型店、ネオパークオキナワなどだ。また、帰り道にある道の駅許田は、地域の産品を観光客に販売する重要な拠点になっていた。美ら海水族館がある海洋博公園にも、立派な植物園である熱帯ドリームセンターを備えている。本部半島を訪れる多くの観光客は、こうした施設のいずれかと組み合わせたコースで巡るし、その過程で地域の飲食店を利用する。夕方には本部半島を離れ、夕食は中南部で、というのがモデルコースだろう。

ジャングリアの登場は、モデルコースをどう変えるか

ジャングリアは、従来は周辺施設に流れていた観光客を、ジャングリアに半日滞在させることを目論んでいる[1]。これを、参考文献[1]では今帰仁村が素通りされることに対する解決策として、美談のように語っているが、果たしてそうだろうか。これが美談となるための前提条件に、「ジャングリアを訪れた観光客が、北部に一泊する」ことがある。北部に一泊すれば、翌日、古宇利島などを回るだろう、という考えだ。

しかし、北部地域には観光客を受け入れるのに十分なホテルが無い。大規模なホテルは、瀬底島のヒルトン、本部のオリオンホテル、名護だが遠距離のカヌチャベイなどがあるが、いずれも既に、きちんと営業できている良質なホテルだ。100万人規模の観光客を受け入れるのに十分な、余剰キャパシティは無い。また、本部半島付近は平地が少なく、ホテル開発に適した土地がほとんどない。仮に本部半島での宿泊ニーズが高まったとして、それを受け入れるだけのホテル開発を行うには、山を切り開く必要がある。

となれば、仮に北部で宿泊したいと思っても、宿泊できない客は中南部に宿泊する。ジャングリアが半日を奪ってしまえば、周辺の観光地・観光施設が苦しむであることは、容易に想像ができる。単純に、パイの奪い合いになる可能性が高い。

ジャングリアに夜まで滞在することになれば、夕飯は近隣で済ませようと考えるだろう。しかし、周辺には観光客を十分に受け入れられるような、夜の飲食店のキャパシティが無い。パーク内で食事せざるを得ない方も多いだろう。すると、従来中南部で発生していた食事の需要が、ジャングリアのパーク内にシフトする。場合によっては、北部地域で発生していた昼食需要もパーク内にシフトしていくことになる。こちらも、パイの奪い合いになる。

美ら海水族館とセット、という前提は正しいか

美ら海水族館は、開館時間が8:30~18:30。対してジャングリアは、10:00~19:30が基本だ(スパは21:30まで)。一見、美ら海水族館の後にジャングリアに立ち寄るスケジュールを組んでいるように見える。しかし、ポイントは違うところにある。

ジャングリアのアトラクションは、特にジップラインや気球、バンジージャンプなどのアクティビティ系アトラクションのキャパシティが小さい[2]。これらのアトラクションは、「入場後に整理券の取得が必要」とされている[3]。すなわち、開園直後に入場しなければ、体験できないアトラクションだ。10時の開園前、9時45分にパークに到着しようと考えると、美ら海水族館は朝一番に入館しても、滞在時間は30分程度となる。現実的ではない。

旅行会社が用意したモデルコースを見ると[3]、パークのオープン時間は11時をベースとしているようだ。開業から時を経て、落ち着いたころには11時開業となって、美ら海水族館と両立するかもしれない。ただ、開業後8月末までは、両立しないスケジュールが組まれている。今後も繁忙期はこのスケジュールになるとすれば、繁忙期は美ら海水族館とパイの奪い合いを行うことになる。繁忙期に最大1万人を入れる想定をしていることを鑑みれば、整理券が必要ないアトラクションも、3~4時間程度の待ち時間が発生すると予想される[2]。これを考えれば、「午後からゆっくり訪れる」という選択肢は無いだろう。美ら海水族館とセットになったモデルコースは、閑散期に限定される。

滞在日数は社会構造によって決まる

ジャングリアは、パークの開業によって、将来的には沖縄来域者の滞在日数を伸ばしていきたいとしている。滞在日数を伸ばすことで、周辺観光施設にも波及効果をもたらす構想だ。これも、現実的とは言えない。

沖縄来域者の平均滞在日数は、約4日だ[4]。2泊3日と3泊4日で、全体の6割超を占める。その理由は簡単だ。日本や、東アジア諸国の休日や有休の取得スタイルが、そのような形になっているからだ。4日以上の連続した休みを確保しにくいから、最大3泊4日となる。つまり、滞在日数を伸ばすためには、休暇の取り方、という社会構造を、東アジア諸国で根本から作り直す必要がある。パークを作っただけでは、そのような変革は期待できない。現状、沖縄の滞在日数を伸ばすことは、現実的ではない。

では、なぜジャングリアは滞在日数が伸びると期待しているのか。彼らは、ジャングリアが海外から新規客を呼び込むことを想定していない[5]。あくまで、沖縄来域者の中からジャングリアに来てもらおう、というスタンスだ。滞在日数が伸びなければ、既存観光施設とのパイの奪い合いになることは明白だ。地元の観光施設との摩擦を避けるため、滞在日数が伸びることを「期待」しているのではないだろうか。しかし、その期待は実現性が低い。

消費の重心が南部から北に移る

ジャングリアが想定通りの集客を達成し、かつ滞在日数が伸びず、多くの方が北部で一泊することになれば、割を食うのは中南部の施設だ。特に、車が無ければ行きにくい地域は、ジャングリアと直接的に競合することになる。

例えば、ビオスの丘やCAVE OKINAWA、琉球村などの中部地域の観光施設、あるいは宮城島や伊計島など、車でなければアクセス困難な島などだ。修学旅行生の奪い合いも発生すれば、おきなわワールドなども打撃を受けるだろう。

ジャングリアが開業して、想定通りの集客を達成すれば、それによって、那覇以外の観光地は大なり小なり打撃を受けることになる。滞在日数が伸びる予兆が見えれば、地元も安心するかもしれないが、そうした傾向が見えなければ、ジャングリアに対する風当たりは強まることになるだろう。

参考文献

[1] POTLUCK YAESU 「【刀流 地方創生】沖縄北部新テーマパークモデルが地域の「ザル経済」を変える」2025年3月16日閲覧
https://www.potluck-yaesu.com/magazine/20230308/209/

[2] Yu Shioji, J. Amusement Park (2025) 250004.

[3] JTB 「ジャングリアへの旅」2025年3月16日閲覧
https://dp.jtb.co.jp/lookjtb/dp/pamphlet/2025_ace_1451279/#5

[4] 沖縄県「沖縄観光に関する統計・調査資料」2025年3月16日閲覧
https://www.pref.okinawa.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/026/887/2_1-5r4kankouyouran.pdf

[5] 沖縄タイムス「7月開業のジャングリア沖縄 入場料6930円の狙いと収益性 その戦略とは?【インタビューでより詳しく】」2025年3月16日閲覧
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1516362

コメント

  1. ドオー より:

    よく経済効果が〇億円なんて話を聞きますけど、それはどこかで消費されていた分が回ってきただけだと思うんですよね
    ようはパイが拡大していない

    今回の記載の中にもありましたけど、既存のパイを食い合うだけではしんどいんじゃないかなぁ

    • 塩地優 塩地優 より:

      ドオー様

      コメントをありがとうございます。
      また、承認が遅くなってしまいまして申し訳ございません。

      仰る通り、経済効果は他から回ってきた部分も多くあると思います。特に国内の観光客で回す場合、国内旅行消費額自体がほとんど伸びていませんので、単にパイの奪い合いをしているだけだと思います。どこかで経済波及効果が発生すれば、それに相当する経済効果がどこかで消えてしまいます。
      頼みの綱は、インバウンド客を増やすことですが、ジャングリアが単体で目的地にならないと、彼ら自身が言ってしまっていますので、市場拡大は険しい道ですね。

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