Author: Yu Shioji (塩地 優)
Article type: Outreach(解説)
Article number: 250005
2025年7月、沖縄に新たなテーマパーク「ジャングリア沖縄」がオープンする。P&Gで培った、数学的なマーケティングのスキルを活用して、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを経営危機から救い、V字回復。万年赤字だったグリーンピア三木をネスタリゾート神戸に転換して黒字化、西武園ゆうえんちのリニューアルを行って集客増、お台場にイマーシブ・フォート東京を開業など、テーマパークに関わる様々な実績で知られる森岡毅氏が率いる株式会社刀。その刀が、長年温めていた沖縄テーマパーク事業を、ついに具現化する。実績を見ると、失敗の要素が無い事業のようにも思えるが、本当なのだろうか。落とし穴はないのか、地元の懸念なども踏まえてみていこう。
第1回の今回は、刀のこれまでの実績を確認していく。
この解説は、一般誌寄稿用原稿に、大幅に加筆修正したものです。文体が通常と異なること、正確性よりわかりやすさを重視していることをご了承ください。
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刀の実績はホンモノか
成功根拠の最たるものとされる、これまでの刀の実績は本物なのだろうか。公表されている事実をもとに、検証してみよう。
まず、刀の創業以前、森岡毅氏の最大の功績とされるのが、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の再建である。中でも、復活の端緒となったとされているのが、若者向けの映画をテーマとしたパークだったものを、あらゆる世代に向けたエンターテイメントの集積地に変更した、というものである。しかしながら、ワンピースをテーマとしたショーは、森岡氏がUSJに入社する前から実施されていた[1]。また、これは森岡氏も最近の著書やインタビューで認めていることだが、ファミリー向け施設の拡充は、当時の社長だったグレン・ガンペル氏主導で、森岡氏入社以前から実施されている[2]。
ネスタリゾート神戸は、償却後は赤字
では、ネスタリゾート神戸はどうだろうか。年金福祉事業団が運営していた保養所で、いわゆる箱モノの代表格だった施設を、パチンコ店の運営会社が買い取り、刀に再建を依頼した。刀は、宿泊型の保養所だった施設を、「大自然の冒険テーマパーク」へと転換した。バギーやジップラインなどのアクティビティ、農産物の収穫体験、BBQなどを中心とした、宿泊もできる日帰り施設へと転換したのである。
このリニューアルによって、刀は、「営業利益(償却前)初の黒字化も達成(2020年12月期)」[3]としているが、「償却前」という注記に注意が必要だ。これは、「設備投資を無視すれば」という前提である。償却前の営業利益は、企業の稼ぐ力を示す指標として用いられるが、設備投資を加味すれば、当然、設備投資を無視するよりも利益が少なくなる。
実際、ネスタリゾートは、親会社が変わる前に資本注入されたと思われる2021年度を除いて、すべて赤字である[4-6]。刀との協業の最終年度である2023年11月期には、8億円超の赤字を計上している[6]。この年の償却額は最小で7千万円程度、最大でも4億円程度と推測されるので、償却前でも大幅な赤字である。
西武園ゆうえんちは、リニューアル後2年目に大赤字
西武園ゆうえんちも見てみよう。2021年5月に、100億円を投じて昭和をテーマとした遊園地へのリニューアルを行った。ゴジラのシミュレーションライドを新設し、アーケード街を昭和の商店街に転換。商店街では毎日、住人たちによるコミカルなショーが繰り広げられている。
このリニューアルに関して、刀は現在、数値に基づく成果を公表していない。「日本全国のメディアを通じ話題となっている。」「驚異的な満足度を達成している。」「各地域の経済活性化のロールモデルとなりつつある。」といった表現にとどまっている[3]。リニューアルから約2年後、2022年4月~2023年3月の決算で、親会社である株式会社西武ホールディングスは、西武園ゆうえんち事業に関して28億円の赤字を計上している[7]。売上高は36億円なので、利益率-78%という大赤字だ。設備投資を除いても18億円の赤字なので、-50%の赤字である。リニューアル後1年目の収支は不明だが、わずか2年目にして大赤字に陥っていることがわかる。
売り上げは伸びるが、利益が出ない
ここで注意しなければならないのは、刀はいずれの施設でも、少なくとも協業開始直後は集客や売上高を伸ばしていることである。それに対して、人件費などのコストや設備投資が重いために、赤字に陥っているということである。マーケティングを得意とする刀は、特に広報面では成功している可能性もあるが、経営面でコストが大きすぎる構造となっているのである。これはつまり、開業前に集客予想(彼らは需要予測と呼ぶ)をする際、その予想値が楽観的過ぎることを物語っている。バブル後に大量に建設され、消えていった多くのテーマパークにも共通してみられる傾向である。なぜ需要予測が楽観的になっているのかについては、本連載の#6で考察する。
この点は、刀が単独で開発し、営業しているイマーシブ・フォート東京でも見られている。本稿の著者は、支出に対して収入が小さすぎる状態にあることを指摘している。
その後、イマーシブ・フォート東京は入場できる客数を従来よりも少なくして、演目を絞ることでコストを低減できる構造に転換した。この成否は捉え方次第であるが、定員から予想される最大売上高は1,500万円程度で、施設の規模や立地を考えると、あまりに少ない額である。
以上の公表されている数値をもとに考えると、刀の実績は、ジャングリア沖縄成功の根拠にはならないことがわかる。あくまで、ジャングリア沖縄単体で、事業が成立するかどうかをニュートラルに検証する必要がある、ということをご理解いただけたのではないだろうか。次回以降、様々な観点から、ジャングリア沖縄は成功するのかどうか、検証していく。
参考文献
[1] Wikipedia 「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」2025年3月2日閲覧
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%83%8B%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%B8%E3%82%AA%E3%83%BB%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%91%E3%83%B3
[2] NewsPicks 「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を僕たちはどのように再建したのか?」2025年3月2日閲覧
https://newspicks.com/news/7821474/body/
[3] 株式会社刀「プロジェクト」2025年3月2日閲覧
https://katana-marketing.co.jp/project/
[4] 官報決算データベース「株式会社NESTA RESORT」2025年3月2日閲覧
https://catr.jp/companies/94b81/38730
[5] 官報決算データベース「株式会社NESTA RESORT」2025年3月2日閲覧
https://catr.jp/companies/4c68a/54973
[6] 官報決算データベース「株式会社ネスタリゾート神戸」2025年3月2日閲覧
https://catr.jp/companies/3c8ce/197068
[7] 株式会社西武ホールディングス「2023年3月期決算実績概況」p.65 2025年3月2日閲覧
https://ssl4.eir-parts.net/doc/9024/ir_material_for_fiscal_ym70/135039/00.pdf
引用方法
引用時は、下記を明記してください。
Yu Shioji, J. Amusement Park (2025) 250005.
利益相反
本稿に関わる利益相反はありません。
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