遊園地の収入とコスト2 – 設備投資と維持コスト

Author: Yu Shioji (塩地 優) 
Article type: Commentary (解説) 
Article number: 230016

遊園地の収入とコストのバランスを見る連載の第2回です。

前回は、ザックリとした説明で全体を概観しましたが、今回からはもう少し踏み込んだ議論をしていきます。

https://j-amusementpark.com/util-rate/

まずは、コストの中でも設備投資と設備の維持コスト(税金)、資金調達コストを考えてみることにします。

 

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設備投資

最近では中古やリースでアトラクションを導入する例も増えていますが、ここでは新規に一括購入で遊園地を建設することを考えてみましょう。日本では現実的ではない例ですが、この例を用いることで、なぜ遊園地の新設が現実的でないかを理解することができます。遊園地の規模としては中規模クラス、大型ローラーコースター, 小型ローラーコースター, マウス系ローラーコースター, 観覧車, メリーゴーラウンド, ティーカップ, 回転系スリルライド, 汽車, シアターライド, シューティングライド, ゴーカートが各1個ずつ、キディライドが5個ある場合を想定します。

設備投資は、単純にこれらの金額を足し合わせたものとなります。

大型ローラーコースターの金額は、構成によって大幅に変動します。例えばリニアロンチを複数備えた2023年7月オープンの富士急ハイランドZOKKONでは、約45億円かかっています[1]。もともとの木組みを再利用した、2019年3月オープンのナガシマスパーランド白鯨は、約29億円です[2]。ここでは、40億円という数字を採用しましょう。

小型ローラーコースターは、その中でも小学校高学年付近をターゲットにしたようなコースターであれば、例えばVekoma社のFamily Boomerangシリーズで約14億円という例があります[3]。ローラーコースターを2機しか設置しない場合、1機は入門レベルにした方が良いでしょうから、もう少し小型で小学校低学年くらいからターゲットになるようなものを選択します。日本の泉陽興業の取り扱いもある、イタリアZamperla社の80STDと呼ばれるモデルくらいを想定します。日本ではレゴランドジャパンやマザー牧場に設置されている機種です。明確な参考金額はありませんが、少し高めに3億円を見積もっておきます。

マウス系ローラーコースターも、少し大型のものを採用して3億円程度を見積もっておきましょう。

そのほかのアトラクションはあまり明確な参考金額がありませんので、参考文献[4]を参照して、観覧車(50m級)5億円、メリーゴーラウンド2億円、ティーカップ1億円、回転系スリルライド2億円、汽車(レール含む)1億円、シアターライド2億円、シューティングライド2億円、ゴーカート3,000万円、キディライド4,000万円×5とします。

ここまでの総投資額、63.3億円です。

 

もちろん、遊園地の開業に必要な資金は、アトラクションだけではありません。

土地代に関しては、遊園地クラスの大規模開発になると、自治体の協力なしには成立しませんので、相場はあってないようなものです。例えばディズニーランドの開業時には、自治体から購入した土地の転売によって建設資金を賄ったりしています(あくまでフィクションですが、[5]に詳しいです)。ここでは、企業の私有地の転用を想定して、土地代は加味しないことにしておきましょう。

そのほか、メインエントランスやレストラン、ショップ、駐車場、トイレ、事務所などなど、様々な施設を建設する必要があります。もちろん、お客様が歩くところは舗装をして、植栽の整備なんかもしなければなりません。大きくこだわらなければ、ザックリ130億円。

総工費200億円規模の施設になります。

 

設備の維持コスト

ここで考えるのは、単に税金などのコストです。管理コストに相当するような、メンテナンスや修理等は、記事を分けて考えることにしましょう。一点、注意が必要で、上で述べた設備投資は開業時に必要な資金ですが、以下はいわゆる運転資金として必要になるものです。毎年の売り上げの中から支出が必要になるもの、という点をご認識ください。

詳しくは会計の教科書などをご覧いただきたいのですが、設備には固定資産税がかかります。固定資産税は、販売価格ではなくて、帳簿価格に対してかかりますので、まずは帳簿価格というものを考えないといけません。

モノは使えば使うほど、あるいは置いておけば置いておくほど劣化していきますから、その価値は年数の経過とともに落ちていきます。ですから、会社が持っている資産の価値も、モノを買ってから年数が経過するにしたがって減っていきます。

モノを買った瞬間には、一定の金額を支払うわけですが、そのタイミングでは支払った金額はすべて、モノの価値に変わります。ですから、会社の資産は減りません。そこから時間の経過とともにモノの価値が下がって、資産が減っていくのです。この考え方を、減価償却と言います。

 

減価償却の期間は、ザックリとですが法律で年数が定められています。ザックリというのは、モノの分類がおおざっぱで、実際に買ったものがどの分類に当てはまるのか判然としないことが多い、という意味です。遊園地の遊具に関しては耐用年数が7年です。ただし、所轄の税務署によって判断が異なる場合もあるかもしれません。

ここでは7年で減価償却することを考えてみましょう。遊具の設備投資額63.3億円を、すべて7年で償却します。年度初めに買ったとしますと、買った年の年度末には、63.3億円の1/7, 9億円が償却されて、帳簿価格は54.3億円に減ります。翌年度末にはさらに3.7億円償却して、45.3億円、といった具合に、毎年度末に帳簿価格が減っていきます。かなり簡略化して書いてしまっていますので、正確な計算方法は、必ずご自身でご確認ください。

固定資産税は、この帳簿価格に対してかかるのです。ですから、固定資産税は毎年減っていきます。税率1.4%の場合、初年度は0.9億円、2年目は0.76億円、3年目は0.63億円、といった具合です。このまま7年後に帳簿価格を1円まで落とせば、約3.5億円が支払総額になります。減免措置などもありますが、ここでは満額支払いを想定しておきます。

 

もちろん、上物(建物など)にも固定資産税はかかります。建物はより評価額が高くて、遊園地の建物は基本的にコンクリを使いますから、築45年以上経過でも2割が残ります。しかも、「同じ建物を現時点で建てたと仮定した場合の価格」に対して、経過年数補正した額に対して税金がかかりますので、インフレが起きればその分だけ税額も上がることになります。

このため、正確な税額を見積もることは困難です。ここでは、これまでの「失われた30年」に近い形でインフレがほぼ起きないということを前提に見積もります。建物の評価額がそのまま130億円だったとしますと、初年度は1.74億円、2年目は1.69億円、と徐々に減少して、45年経過以降は0.36億円となります。

 

土地にももちろん課税されます。企業所有地を前提としていますが、固定資産税だけはかかり続けるのです。こればかりは立地によって大きく変わってきてしまいます。例えばですが、大都市近郊の駅近を考えることにしまして、宮城県仙台市の仙台港付近の土地(アウトレットや水族館などがある場所の近くです)を考えます。アウトレットなどからは少し離れた場所ですが、陸前高砂駅と中野栄駅の中間付近に地価公示価格約7万5千円/m2という商業地があります。

面積のイメージとしては、浜名湖パルパルのプールを除いたエリア程度を想定してみます。Googleマップで見積もりますと、およそ10万m2(駐車場含む)。ちなみに、駐車場を含めると、富士急ハイランドがおよそ40万m2, 東京ディズニーランド(シー除く、本社地区含む)で70万m2くらいです。

10万m2で地価公示価格7万5千円ですと、土地の評価額は75億円。これに1.4%の固定資産税がかかりますので、年間1億円ほどの税金がかかることになります。ちなみに、この75億円というのはあくまで評価額です。遊園地用のまとまった土地を手に入れようとしますと、実際には立ち退き等も発生しますので、数倍以上の金額が必要になると想定されます。

 

資金調達コスト

さて、初期投資200億円+開業までにかかる各種費用を、どこから調達してくるのか、というのも重要なポイントです。

当然ながら、まずは銀行を頼ることになりますが、銀行が遊園地の新規開業などという改修めどのなさそうな事業に融資をしてくれるとは、到底思えません。鉄道会社であれば融資を取り付けられる可能性も無くはないと思いますが、あくまでメインの事業に対して、遊園地事業の規模が小さい場合です。

基本的には、社債や株式の発行などに頼ることになります。それでも買い手がつくとは思えませんが、そう言っていては話が進みませんので、ここでは資金調達ができた、という前提にしておきます。

 

資金調達のコストを計算する際には、WACC(加重平均資本コスト)という概念が用いられます。借り入れや株式の発行等々にかかるコストを、その割合で加重平均したものだと思って頂ければ良いと思います。このWACCは、大企業であれば5%程度まで下がるようなこともあり得ますが、遊園地のみを運営するような企業の場合、10%とか、場合によっては15%といった値になる可能性があります。要するに、企業の信用力がそのまま資金調達コストとして跳ね返ってくるのです。

これは、上にも述べた通りで「遊園地を新規に作ろうとしても資金調達できない」ということの裏返しです。極めてリスクの大きい事業のため、低利率では資金を融通してもらえないのです。リスクに見合ったリターンを渡す必要があるため、WACCの値が大きくなってしまいます。

 

ここでは、仮に12%という値を採用しておきましょう。人件費や採用コスト、設備のメンテナンスコスト、エネルギー費、細かな備品のコスト等々は別途議論をしますが、開業資金として250億円が必要だということにします。

そうすると、この250億円に対して年率12%を払い続けなければならないことになります。もちろん、剰余金で元本を減らす、信用を上げてWACCを下げるなどによって、金額は変動しますが、少なくとも初期段階では、年間30億円相当の支出が必要になります。

これは、上記の税金や、大型遊具のコストと比較しても、かなり高いことがお分かりいただけるかと思います。遊園地の運営会社にとって、資金調達コストは極めて重い負担なのです。このため、資金調達コストを嫌って(あるいはそもそも資金調達ができなかったり、負債を負うリスクを嫌うなどの理由で)、大型遊具をリースで導入する場合もあります。そうすると、大型遊具の設備代金を一括して支払う必要が無いため、資金調達コストはかなり軽くなるのです。ただ、往々にしてリース代金にはリース会社の資金調達コストや、リース会社の利益、管理コストなどが上乗せされます。結果的には高くつくことになりますので、自前の資金で導入できるなら、それに越したことはありません。

 

次回は、人件費などのいわゆる運転資金を議論していくことにします。

 

参考文献

[1] PRTimes https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001446.000001110.html (2023年7月31日閲覧)

[2] 朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASL9S4K4DL9SOIPE00K.html (2023年7月31日閲覧)

[3] Yu Shioji, J. Amusement Park (2023) 230017. https://j-amusementpark.com/20230806/

[4] 「あなたの知らない安全なテーマパークの仕組み」清水群 (2023)

[5] 「夢を喰らう」本所次郎 (1994)

 

引用方法

引用時は、下記を明記してください。

Yu Shioji, J. Amusement Park (2023) 230016.

 

利益相反

本稿に関わる利益相反はありません。

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