「ジャングリア沖縄」見落とされがちな失敗因子#2 成功の基準

Author: Yu Shioji (塩地 優)
Article type:
Outreach(解説)
Article number: 250006

2025年7月、沖縄に新たなテーマパーク「ジャングリア沖縄」がオープンする。P&Gで培った、数学的なマーケティングのスキルを活用して、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを経営危機から救い、V字回復。万年赤字だったグリーンピア三木をネスタリゾート神戸に転換して黒字化、西武園ゆうえんちのリニューアルを行って集客増、お台場にイマーシブ・フォート東京を開業など、テーマパークに関わる様々な実績で知られる森岡毅氏が率いる株式会社刀。その刀が、長年温めていた沖縄テーマパーク事業を、ついに具現化する。実績を見ると、失敗の要素が無い事業のようにも思えるが、本当なのだろうか。落とし穴はないのか、地元の懸念なども踏まえてみていこう。

第1回は、刀の過去の実績にとらわれず、ジャングリア沖縄をフラットに評価すべきだ、と第2回の今回は、どうすればジャングリア沖縄は成功したと言えるのか、その基準を考える。

この解説は、一般誌寄稿用原稿に、大幅に加筆修正したものです。文体が通常と異なること、正確性よりわかりやすさを重視していることをご了承ください。

unsplushより
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利害関係者に営業継続を反対されてはいけない

企業の成功、失敗の定義というのは、一概に言えるものではない。しかしながら、テーマパークを株式会社が運営している場合、「失敗ではない」ラインは比較的明確になる。それは、すべてのステークホルダー(利害関係者)が営業停止を求めない状態だ。個人経営のような形式でない限り、企業には様々な利害関係者がいて、それらの人々に報いる必要がある。

では、ステークホルダーにはどのような人たちがいるのだろうか。ジャングリア沖縄のステークホルダーとして、代表的なものを以下にあげる。

  • 出資者(主として株主のことで、刀だけではなく多数の企業や個人が出資している)
  • 債権者(お金を貸した人のことで、琉球銀行と商工中金が窓口となって様々な金融機関が債権を持つ)
  • 従業員
  • 地元住民(ジャングリアが立地する今帰仁村民、隣接する名護市民などや、沖縄県民)
  • 地主(もともとゴルフ場だった土地を貸し出している、オリオンビール)
  • 来園者
  • 地元自治体(今帰仁村、名護市、沖縄県など)
  • 取引先(旅行会社、ホテル、農産物の仕入れ先、グッズの仕入れ先など)

この中で、来園者と取引先だけは利害関係がシンプルだ。営業を継続できる程度に多くの来園者がいれば、営業停止を求められていないことになる。営業を継続できるだけの集客ができるかどうかは、#3で議論する。取引先についても、請求通りに支払いがなされている限り、営業停止を求めるような関係には発展しづらい。

来園者と取引先以外のステークホルダーについては、利害関係が複雑に絡み合うため、以下では、それらを紐解いていこう。

お金に関するネックは、債権者

出資者は、ジャングリア沖縄の運営によって得られる利益から、配当を受け取ることを期待している。したがって、十分な配当を受け取っていて、将来にわたって十分な配当を受けられると考えれば、注文は付けない。ただし、ジャングリア沖縄の出資者は、債権者に近い考えになる可能性があることに、注意が必要だ。通常、株式会社は、解散すれば資産を売却し、債権者に支払いをしたうえで残額を株主に分配できる。会社が持つ資産は、債権が無ければ、すべて株主のものである。しかしながら、ジャングリア沖縄には「資産」が無い。会計上は、当然ながら資産が計上されているが、保有しているのは動く恐竜の人形や、ジップラインなどのアクティビティ施設、レストランなどの建物であって、高く売却できる、資産価値を持つものがほとんど無い。したがって、出資者は十分な利益が出なければ、強い不満を持つ。一方で、会社を解散しても得られるものが無いので、解散を求めることにメリットがない。配当を受け取れなくても、将来配当が発生することに期待して、耐えることしかできない状況に置かれる。

一方で、債権者は常に返済を求め続けるし、返済ができなければ、会社は倒産することになる。取引先や地主への支払いもショートすれば、当然、倒産へと進むことになるのだが、いわゆる自転車操業状態になった時に、最大のネックとなるのは債権者への支払いだ。ただし、先にも述べたように、ジャングリアにはこれといった資産が無いことから、解散を求めると債権の回収ができなくなる可能性も高い。返済額を除いたときに、キャッシュフローが黒字になっていれば、借り換えなどによって返済を先延ばししてもらえるだろう。

そのボーダーラインを、本稿の著者は以下のように試算した[1]。

  • 出資者に十分な配当をする場合: 客単価10,600円で、年間120万人の集客
  • 出資者への配当0、債権者への支払いのみの場合: 客単価10,600円で、年間100万人の集客
  • 出資者、債権者ともに支払い0になる場合: 客単価10,600円で、年間75万人の集客

なお、借入時点での返済期間は、ジャングリア沖縄の開業から20年間であると推定できる[1]。順当に支払いを終えるには、年間100万人の集客を、20年間続けなければならない。年数が経つごとに集客が減るモデルでは、初年度175万人の集客が必要だと推計している[1]。

地主であるオリオンビールとは、良好な関係を構築していると推測される。したがって、賃料が支払われていれば、オリオンビールにとってレピュテーションリスクが発生するような事態にならない限り、立ち退きを求められることは無いと考えられる。レピュテーションリスクというのは、例えばジャングリア沖縄で、パークの過失による事故が多発するとか、親会社である刀に不祥事があるとか、そういった事態だ。このような事態になるかどうかは、パークの安全管理や、会社のコンプライアンス管理しだいだ。

地元には悪い印象を与えないことが重要

地元住民や地方自治体は、よほどの問題が発生しない限りは、単一の出来事で営業停止を求めるほどの、強い意見を発することは無い。一方で、複数の問題が重なると、徐々に不満が蓄積し、わずかなきっかけで噴出するようになる。したがって、以下のいずれについても適切な対応をしていく必要がある。

地元経済にとって、最大の直接的貢献は、雇用だ。特に、沖縄北部地域は、南部と比べても平均賃金が低い。そこに、比較的高い賃金の雇用が多数生み出されることは、非常に大きなメリットになる。ジャングリア沖縄に求められるのは、その多数の雇用を、長期にわたって維持し続けることだ。他方で、ジャングリア沖縄が雇用を拡大することによって、地元には人手不足の心配も出ている。どちらに大きく転んでも、地元に不満が募るため、絶妙なバランス感覚が求められる。雇用については、#4で詳しく解説する。

一次産業である農業や畜産に関わる方からすれば、ジャングリアが多量の農産物を買い上げ、消費することを望んでいる。また、それによるブランド化を通して、沖縄県産の食材の価格を上げていくことまで期待される場合もある。しかしながら、一気に多量の農産物を消費してしまうと、供給が追い付かなくなることも想定される。したがって、ジャングリア沖縄には、消費量について、ある程度の精度がある予測を公表することも求められている。現状、ジャングリア側からそうした予測値が公表されていないため、著者が上記の試算に合わせて予測を行った。その結果は、農産物は4~7億円程度であった[1, 2]。これに対する地元一次産業の受け止めは、「思っていたよりは少ない」「一気に数億円の売り上げができるなら大きい」といったもの[2]で、まちまちである。「少なすぎる」という統一見解ではないことから、これ自体がジャングリアの存続にかかわることは無さそうだ。上記の試算によれば、沖縄県の農業総生産額に対して1%に満たない額の発注額になる。生産体制を大きく変えるような影響もないため、地元の不満にはつながりにくい。

大きな渋滞が発生すると、名護市の住民や勤務者に大きな影響を与える。特に、ジャングリア沖縄周辺は道路事情が悪いことで知られている。ゴールデンウィークなどの繁忙期には、美ら海水族館への迂回ルートとしても用いられるため、長い渋滞が発生すると予想される。ただでさえ渋滞する道路が、さらに渋滞が悪化してしまうと、美ら海水族館などの既存施設への悪影響も予想される。既存施設に悪影響を及ぼせば、県内の方にも悪い印象を持たれることになる。渋滞については、#5で解説する。

ジャングリア沖縄が開業すると、他の観光施設や飲食施設の集客数が変化する、という間接的な影響が発生する。雇用者数の増加によって、地元客向けの施設はにぎわうことが予想されるのに対して、周辺の観光施設や沖縄県内の観光・飲食施設については、客数が減少する可能性がある。この点については、#6で解説する。

地元との誠実な対話が必要

その他にも、例えば沖縄県の観光協会に相当する、「沖縄観光コンベンションビューロー」の下地会長は、「アジアからの直行便で人を呼び込むなど、開園前後で(人数や消費金額が)明らかに変わったと言えなければ、成功と言えない」と述べている[3]など、成功の基準は人によって大きく異なる。

上記の下地会長の言葉は、刀やジャングリア沖縄側の説明が、誤解を呼ぶほど期待を煽ったことに由来する。刀やジャングリア沖縄側は、「急成長するアジア富裕層の観光需要を取り込む「変化の起点」を沖縄の地に創り」[4]など、海外から集客すると読み取れる言説を繰り返していた。これに対して、2025年1月になって、ジャングリア沖縄を運営する、ジャパンエンターテイメントの森崎菜穂美取締役は、「ジャングリアのために世界から海を越えて来るということはまず想定していない。沖縄の旅行に来ると決めている人の中から多くの方にお立ち寄りいただく」と述べた[5]。この発言が、下地会長には「話が違う」と映ったようだ。

こうしたことが続くと、徐々に地元住民の信頼を失い、何かのきっかけで事業継続への強い反発が生まれる地合いができていく。特に沖縄は、歴史的経緯から、県外の事業者に対して、厳しい目が向けられる。新聞などの地元メディアも、オピニオンリーダーとして、他県における地元メディアのそれよりも強い影響力がある。一度歯車が逆回転を始めると、加速しやすい地域だ。ジャングリア沖縄や刀には、実態に即した事実を公表し、それを誠実に履行していくことが求められる。

#1は、以下を参照されたい。

参考文献

[1] Yu Shioji, J. Amusement Park (2025) 250004.
https://j-amusementpark.com/junglia-bep/

[2] 沖縄タイムス「【挑む ジャングリア開業】食材費は年7億円か 園内で「本格派」のメニュー提供 沖縄県産が7割の予定」2025年3月2日閲覧
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1526834

[3] 沖縄タイムス「ジャングリア沖縄の開業「観光全体に相乗効果を」 OCVBが関係者の連絡協議会を設置へ」2025年3月2日閲覧
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1517632

[4] 株式会社刀「プロジェクト」2025年3月2日閲覧
https://katana-marketing.co.jp/project/

[5] 沖縄タイムス「7月開業のジャングリア沖縄 入場料6930円の狙いと収益性 その戦略とは?【インタビューでより詳しく】」 2025年3月2日閲覧
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1516362

引用方法

引用時は、下記を明記してください。

Yu Shioji, J. Amusement Park (2025) 250006.

利益相反

本稿に関わる利益相反はありません。

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